香川県を拠点に、医療・介護・保育の現場で、感染対策の相談、職員研修、マニュアル・BCP整備など、現場に合った「無理なく続けられる感染対策」の支援を行う、感染管理認定看護師の横山達也です。
先日、ある訪問先で感染対策についてお話ししている中で、こんな質問をいただきました。
「トイレに排泄物が残っていて臭いがする場合、その臭いや空気から感染することはありますか?」
実は、以前にも保育施設の職員さんから、
「トイレから感染しないように、空気清浄機を置いた方がいいのでしょうか?」
と質問されたことがあります。
介護施設や保育施設など、排泄介助やオムツ交換が日常的に行われる現場では、気になる方も多いのではないでしょうか。
実際に臭いがすると排泄物の存在を意識せざるを得ないので、なんとなく不快になる気持ちは私もよくわかります。
結論からいうと、トイレの「臭い」そのものから感染するわけではありません。
ただし、トイレや排泄物には感染症が広がるきっかけがいくつもあります。
大切なのは「臭うかどうか」ではなく、
病原体がどのような経路で人から人へ移動するのかを考えることです。
トイレの臭いそのものから感染するわけではありません
まず、「臭いがする=病原体を吸い込んでいる」と考える必要はありません。
私たちが感じている臭いと、ウイルスや細菌そのものは別のものです。
そのため、
「便の臭いがするから、その空気を吸っただけで感染する」
という理解は基本的には正しくありません。
では、なぜトイレは感染対策上注意する場所なのでしょうか。
注意したいのは「空気」よりも手と接触面
トイレで特に注意したいのが、手を介した感染の広がりです。
例えば、排泄後にお尻を拭いたとします。
そのとき手に便由来のウイルスや細菌が付着し、そのまま、
- トイレのドアノブと鍵
- 手すり
- 水を流すレバーやボタン
- トイレットペーパーホルダー
- 手洗い場の蛇口
などに触れると、そこに病原体が付着する可能性があります。
その後、別の人が同じ場所を触り、その手で食事をしたり、口元を触ったりすれば、感染につながることがあります。
特にノロウイルスでは、感染した人の便や吐物を介した二次感染が重要です。厚生労働省も、トイレなどを衛生的に保つことや、ドアノブなど手が触れる場所の洗浄・消毒を感染対策として挙げています。
つまり、トイレの感染対策では、
「どんな臭いがしているか」より「どこを手で触っているか」
を見ることが重要です。
排泄物を処理するときの「飛び散り」にも注意
もう一つ注意したいのが、排泄物を処理するときの飛び散りです。
下痢便や吐物を勢いよく拭き取ったり、汚染された物を乱暴に扱ったりすると、細かな飛沫や汚染物が周囲に飛び散る可能性があります。
そのため、排泄物や吐物を処理するときは、
- 手袋
- エプロンやガウン
- マスク
- 飛び散る可能性が高い場合は目の防護
などを状況に応じて使用し、病原体をできるだけ飛び散らせないよう静かに処理することが大切です。
厚生労働省も、ノロウイルスが疑われる便や吐物を処理する際には、使い捨てのガウン(エプロン)、マスク、手袋を使用し、ウイルスが飛び散らないよう静かに拭き取ることを推奨しています。
ノロウイルスでは「空気中に漂う」こともある
ここまで読むと、
「では、トイレの空気はまったく気にしなくてもよいの?」
と思われるかもしれません。
ここで知っておきたいのが、ノロウイルスの特徴です。
ノロウイルスを多量に含んだ便や吐物が床などに残ったまま乾燥すると、それらが細かな粒子となって空気中に漂い、口から取り込まれて感染する可能性があります。
厚生労働省も、ノロウイルスについて、便や吐物は乾燥する前に速やかに処理し、その後十分に換気することが重要としています。
つまり、
「臭いがするから空気感染する」わけではない
一方で、
「排泄物や吐物を放置して乾燥させても問題ない」ということでもありません。
この2つは分けて考える必要があります。
トイレに空気清浄機を置いた方がいい?
では、感染対策としてトイレに空気清浄機を設置した方がよいのでしょうか。
私は、まず空気清浄機を設置することよりも、優先して確認してほしいことがあると考えています。
それは、
- 排泄物や吐物を放置せず、速やかに処理できているか
- 排泄後やオムツ交換後に適切な手洗いができているか
- ドアノブや鍵、手すり、蛇口など手がよく触れる場所を適切に管理できているか
- 排泄物を処理するときに飛び散らせない方法がとれているか
- 必要なときに換気できる環境になっているか
という点です。
特にノロウイルスでは、石けんと流水による手洗いと汚染箇所への適切な消毒が非常に重要です。
厚生労働省も、手洗いを「手指に付着しているノロウイルスを減らす最も有効な方法」としており、消毒用エタノールだけでは石けんと流水による手洗いの代わりにはならないとしています。
空気清浄機を置くことを考える前に、まずこうした基本的な感染経路への対策ができているかを確認することが大切です。
介護施設・保育施設では「排泄介助」全体を見直してみる
介護施設や保育施設では、トイレだけでなく、
- オムツ交換
- ポータブルトイレ
- 排泄物の廃棄
- 汚染した衣類やリネンの処理
- トイレ清掃
など、排泄物に関わる場面が日常的にあります。
そのため、
排泄してから手洗い・廃棄・清掃まで、病原体がどこへ移動する可能性があるのか
という視点で一連の流れを確認してみることをおすすめします。
例えば、オムツ交換の手順は適切でも、汚染した手袋のままカーテンやドアノブ、ワゴンやゴミ箱の蓋を触っていれば、そこから次の人へ病原体が広がる可能性があります。
感染対策では、こうした「ちょっとした動作のつながり」を見ることがとても重要です。
まとめ|トイレの感染対策は「臭い」ではなく「感染経路」を考える
トイレに便が残っていて臭いがすると、
「この空気を吸って大丈夫なのかな?」
と不安になることがあります。
しかし、感染対策としてまず考えたいのは臭いではありません。
どこに病原体があり、何を介して次の人に移る可能性があるのか。
これを考えることが重要です。
トイレや排泄場面では、
- 排泄物を適切に処理する
- 排泄後・オムツ交換後に手を洗う
- 手がよく触れる場所を適切に管理する
- 排泄物や吐物を飛び散らせない
- ノロウイルスなどが疑われる場合は乾燥する前に処理し、換気する
といった対策を積み重ねることが感染予防につながります。
トイレの感染対策で大切なのは、「臭いをなくすこと」ではなく「感染経路を断つこと」です。
「空気清浄機を置いた方がいいかな?」
「もっと消毒した方がいいのかな?」
と対策を追加する前に、まずは「どのように感染するのか」を整理してみる。
そうすることで、その施設に本当に必要な対策が見えてきます。
つなぐ感染対策支援室では、医療機関・介護施設・保育施設などを対象に、日常のケアや業務の中で生じる感染対策の疑問について、現場の状況に合わせたご相談をお受けしています。
「今やっている方法で大丈夫?」
「職員によってやり方が違う」
「マニュアルはあるけれど、現場で実践できていない」
そんな身近な疑問からでもお気軽にご相談ください。
参考
厚生労働省「ノロウイルスに関するQ&A」
厚生労働省「感染性胃腸炎(特にノロウイルス)」



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