感染対策は「お金をかけるほどよい」とは限らない|医療機関・介護施設で見直したい必要な対策と不要な支出

感染対策

こんにちは、香川県を拠点に感染対策の相談や研修を行っている感染管理認定看護師の横山です。

これまでこのブログでは、感染症による入院や職員の集団感染が、施設経営にどのような影響を与えるのかを紹介してきました。

今回は、少し違った視点から感染対策とお金の話をしてみたいと思います。

突然ですが、皆さんの施設では、「感染対策だから仕方がない」と、費用や業務負担を十分に検討せず続けていることはありませんか?

新型コロナウイルス感染症の流行をきっかけに、多くの医療機関や介護施設で感染対策が強化されました。

もちろん、それによって患者さんや利用者さん、職員の安全が守られた場面も多かったと思います。

しかし、流行状況や感染症に関する知見が変化した現在も、費用をかけて当時の対策をそのまま続けている施設もあるのではないでしょうか。

私は、感染対策は決して「お金をかけるほどよい」ものではないと考えています。

大切なのは、必要な対策に、必要なだけの資源を投入することです。

1.感染対策は「始めること」と同じくらい「終わらせること」も大切

新型コロナやインフルエンザ、ノロウイルスなど感染症が発生すると、施設ではさまざまな追加対策が導入されます。

例えば、PPE(個人防護具)の追加、清掃・消毒の強化、職員や利用者の動線の変更などです。

感染拡大を防ぐために必要な対応ですが、ここで一つ考えていただきたいことがあります。

その対策を、いつまで続けるか決めていますか?

現場では、一度始めた対策が、特に見直されないまま継続されていることがあります。

「以前からそうしているから」
「やめて感染が広がったら困るから」

こうした理由で継続している対策も、決して珍しくないと思います。

しかし、感染症の発生状況が変われば、必要な対策も変化します。

例えば、感染性胃腸炎の集団発生時には、環境消毒の強化や接触予防策の徹底が必要になります。

一方、感染拡大が収まり、一定期間新たな発症者が確認されなければ、流行状況や病原体の特性などを踏まえ、追加対策の縮小・終了を検討できます。

もちろん、対策の終了時期は感染症の種類や施設の状況によって異なります。

重要なのは、対策を始めるときに、同時に「どのような状態になれば終了できるか」を考えておくことです。

感染対策にはメリハリが必要です。

必要なときにはしっかり実施し、必要性が低下したら見直す。

これも感染管理の大切な仕事だと思います。

2.感染対策用品は「いつもの製品」が最適とは限らない

感染対策に使用する製品は、日々改良され、新しいものが登場しています。

手指消毒薬、清拭クロス、手袋、ガウンなど、施設で使用している製品はさまざまです。

では、皆さんの施設では、それらの製品をどのような理由で選んでいるでしょうか。

「昔から使っているから」

「業者さんに勧められたから」

もちろん、それ自体が悪いわけではありません。

しかし、現在使用している製品よりも、同等の効果を得られ、コストを抑えられる製品があるかもしれません。

ここで注意したいのは、単純に購入単価が安い製品を選べばよいわけではないということです。

例えば、安価な清拭クロスに変更した結果、必要な清拭面積を確保するために使用枚数が増えたり、作業に時間がかかったりすれば、結果的にコストが増加する可能性もあります。

製品を比較する際には、価格だけでなく、有効性、必要な使用量、作業時間、職員の使いやすさなども確認する必要があります。

感染対策用品を選ぶ際にも、費用対効果を考える。

こうした視点を持つことが、適正なコスト管理につながるのではないでしょうか。

3.何でもフル装備、徹底消毒が正解とは限らない

感染対策というと、手袋、ガウン、マスクなどをしっかり着用し、施設内を徹底的に消毒することが望ましいと考えられがちです。

しかし、感染管理の基本は、感染リスクに応じた対策を選択することです。

例えば、PPEは、血液や体液などへの曝露リスク、実施するケアの内容、感染症の感染経路などによって必要なものが変わります。

すべてのケアで、常にガウンや手袋を着用する必要があるわけではありません。

また、環境清掃についても同様です。

日常的な清掃と、感染症発生時に必要な消毒は区別して考える必要があります。

環境中のすべての場所を、常に強力な消毒薬で消毒すればよいというものではありません。

むしろ、不必要なPPEの使用や過剰な消毒は、消耗品費だけでなく、職員の作業負担も増やしてしまいます。

ここで、簡単な試算をしてみましょう。

【試算例:1日30分の作業を見直した場合】

  • 不要と判断された作業時間:1日30分
  • 職員の人件費:1時間あたり1,800円と仮定
  • 1日あたり:900円相当
  • 30日間:27,000円相当
  • 365日間:328,500円相当

仮に、感染対策に関する業務を見直すことで1日30分の時間を確保できれば、年間で約33万円相当の労働時間になります。

※これは説明用の仮定に基づく試算であり、実際に人件費が33万円削減されることを意味するものではありません。

しかし、こうして生まれた時間を患者さんや利用者さんへのケアに充てられるとしたら、どうでしょうか。

感染対策の適正化は、単なる経費削減ではなく、限られた人員を有効に活用することにもつながるのです。

感染対策の見直し、一緒に考えてみませんか?

つなぐ感染対策支援室では、医療機関・介護施設・保育施設などを対象に、感染対策の相談や現場ラウンドを行っています。

「以前から続けている対策に必要性があるのか知りたい」
「感染対策用品の使い方を見直したい」

そんな疑問についても、施設の状況を確認しながら、一緒に改善方法を考えます。

▶ 感染対策の現場訪問・ご相談はこちら(公式ホームページ)

4.削ってはいけない感染対策もある

ここまで、感染対策の見直しについてお伝えしてきました。

ただし、誤解していただきたくないのは、感染対策を減らすこと自体が目的ではないということです。

例えば、手指衛生や適切なPPEの使用、必要な環境清掃などは、日常的な感染対策の基本です。

これらの対策まで削減してしまえば、かえって感染リスクを高める可能性があります。

感染症が発生すれば、職員の欠勤、患者さんや利用者さんの入院、施設運営への影響など、さらに大きな損失につながるかもしれません。

また、感染対策を変更するときには、職員への説明も欠かせません。

「なぜ、この対策をやめるのか」
「どのような場合には追加の対策が必要なのか」

その理由を理解できていなければ、職員は不安を感じるでしょう。

単にルールを変更するのではなく、根拠を共有し、職員が適切に判断できるよう教育することが大切です。

厚生労働省も、新型コロナウイルス感染症の5類移行後の基本的感染対策について、感染対策上の必要性に加え、経済的・社会的合理性や持続可能性の観点を考慮する考え方を示しています。

これは、医療機関や介護施設ですべての対策を自由に省略してよいという意味ではありません。

施設の特性や患者さん・利用者さんの感染リスクを踏まえて、適切な対策を選択することが重要です。

5.最後に|感染対策の質と施設経営を両立するために

私は、感染管理認定看護師の仕事は、新しい感染対策を次々と導入することだけではないと考えています。

現在行っている対策は、本当に必要なのか。

もっと簡単に、無理なく続けられる方法はないのか。

こうした視点で、現場の感染対策を見直すことも大切な役割だと思います。

感染対策の専門家が現場に入ると、「あれも必要、これも必要」と言われ、かえって業務や費用が増えるのではないか。

そんな印象を持たれる方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、私が目指しているのは、その逆です。

必要な対策はしっかり実施し、必要性の乏しい対策は見直す。

そして、患者さんや利用者さん、職員の安全を守りながら、施設の限られた経営資源を有効に活用できるよう支援したいと考えています。

以前、このブログで「感染対策はコストではなく経営投資である」とお伝えしました。

投資だからこそ、その効果を考え、必要なところに適切に資源を投入することが重要です。

感染対策を、もっと優しく、もっと身近に。

そして、現場で無理なく続けられるものに。

これからも、そんな感染対策を皆さんと一緒に考えていきたいと思います。

感染対策のご相談・職員研修を承っています

つなぐ感染対策支援室では、感染管理認定看護師が、医療機関・介護施設・保育施設などの感染対策をサポートしています。

感染対策の相談や現場ラウンドに加え、職員向け学習会、マニュアルの見直しなどにも対応しています。

「今の対策に無駄がないか確認したい」

「職員が根拠を理解し、自信を持って感染対策を実施できるようにしたい」

そんなときは、ぜひお気軽にご相談ください。

施設の状況に合わせ、実践できる方法を一緒に考えます。

▶ 感染対策のご相談・職員研修のお問い合わせはこちら


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