ノロウイルス・インフルエンザ発生時の環境清拭・消毒|施設で押さえたい清掃方法と消毒薬の選び方

感染対策

香川県を拠点に、医療・介護・保育の現場で、感染対策の相談、職員研修、マニュアル・BCP整備など、現場に合った「無理なく続けられる感染対策」の支援を行う、感染管理認定看護師の横山達也です。

感染症が流行すると、
「いつもより念入りに消毒しなければ」
「とにかく消毒薬でいろいろな場所を拭いたほうがいいのでは?」
と考えることがあるかもしれません。

しかし、感染対策における環境整備で大切なのは、消毒薬をたくさん使うことではありません。

まず汚れをきちんと取り除き、必要な場所を、適切な方法で清掃すること。

そのうえで、病原体や感染経路、環境の汚染状況に応じて消毒を組み合わせます。

厚生労働省も、医療機関の環境整備について「基本は清掃」とし、一律に広範囲の環境消毒を行うのではなく、血液や体液で汚染された場所など必要な箇所に対して清拭・消毒を行う考え方を示しています。

今回は、医療・介護・保育などの施設で確認しておきたい環境清拭・消毒の基本について解説します。

1.平時の環境整備は「まず清掃」が基本

普段の環境整備では、感染症が発生している・していないにかかわらず、標準予防策の考え方を基本とします。

標準予防策とは、感染症の診断の有無だけで判断するのではなく、血液、体液、分泌物、排泄物などには感染性がある可能性を考えて対応する考え方です。介護現場でも感染対策の基本として位置づけられています。

環境についても、

  • 目に見える汚れを除去する
  • 手すりやドアノブなど、よく触れる場所を定期的に清拭する
  • 血液や体液などで汚染された場合は速やかに処理する

といった基本を、日頃から確実に行うことが重要です。

「流行期だけ頑張る」のではなく、平時の清掃を安定して続けられる仕組みを作ることが感染対策の土台になります。

2.「誰が掃除するのか」が曖昧になっていませんか?

環境清掃で意外に多い問題が、

「そこは誰が掃除する場所なのか分からない」

というものです。

例えば、

  • 床は清掃業者
  • ベッド周囲は看護・介護職
  • おもちゃは保育士
  • 医療機器は使用した職員

など、ある程度担当が決まっていても、

「棚の上は?」

「壁は?」

「換気扇やエアコンの吹き出し口は?」

「カーテンは?」

「机の脚やベッドの下は?」

となると、責任の所在が曖昧になっている施設は少なくありません。

そこで一度、部屋を床・壁・天井を含めた六面体として考えてみてください。

六面すべてを毎日清掃するという意味ではありません。

大切なのは、

「施設内に、誰の担当にもなっていない場所を作らないこと」

です。

例えば次のように整理します。

確認項目決めておきたいこと
場所床、机、手すり、壁、天井、換気口など
担当者職員・清掃担当者・設備担当者など
頻度毎日、使用後、週1回、定期清掃など
方法洗剤清掃、清拭、必要時消毒など
使用物品クロス、モップ、洗浄剤、消毒薬
記録実施日、担当者、異常の有無

WHOやCDCも、環境清掃について、場所やリスクに応じた清掃手順・頻度を決め、体系的に実施することを重視しています。

3.清掃したことを「記録」する

清掃方法を決めても、

「やったと思います」

「昨日誰かが拭いたはずです」

では、実施状況を確認できません。

特に複数の職員や清掃業者が関わる施設では、簡単なチェック表を使って実施状況を残すことをおすすめします。

例えば、

□ 手すり
□ ドアノブ
□ テーブル
□ 共用物品
□ トイレ
□ 床

といった項目に、日付と担当者を記録するだけでも構いません。

記録の目的は、職員を監視することではありません。

「やったかどうか分からない場所」をなくすことです。

また、清掃状況を定期的に振り返ることで、

「この場所は汚れやすい」

「ここは誰も担当していなかった」

といった施設の課題も見つけやすくなります。

4.感染症発生時は「病原体に合わせて」消毒を追加する

感染症患者・利用者が発生したからといって、施設全体を一律に消毒する必要があるわけではありません。

基本となる清掃に加えて、

  • どの病原体なのか
  • どのような感染経路なのか
  • どこまで環境が汚染されている可能性があるのか
  • 血液・便・嘔吐物・分泌物などの汚染があるのか

を考えて、必要な場所へ消毒を追加します。

厚生労働省も、血液や体液による汚染がある場合には汚染物を除去したうえで消毒を行い、ドアノブやベッド柵などの高頻度接触面は定期的に清拭し、必要に応じて消毒する考え方を示しています。

介護施設でも、感染者が発生した場合には、居室や使用した共用スペースについて適切な消毒・清掃を行うことが示されています。

ここで重要になるのが、現場職員と清掃担当者の情報共有です。

例えば感染症が発生しているのに、清掃担当者へ伝わっていなければ、通常と同じ手順・同じ物品で清掃してしまう可能性があります。

「感染症が発生したとき、誰が清掃担当者へ伝えるのか」

「どの消毒薬を使うのか」

「クロスやモップをどう処理するのか」

まで、あらかじめ決めておきましょう。

5.清掃しやすい環境を作ることも感染対策

清掃方法を工夫する前に、ぜひ見直していただきたいのが整理整頓です。

床に段ボールや物品がたくさん置かれている。

机の上に書類や備品がびっしり並んでいる。

棚の上に何年も使っていない物品が置かれている。

このような状態では、どれだけ良い清掃マニュアルを作っても十分な清掃はできません。

CDCの環境清掃手順でも、清掃前に物品などが障害になっていないかを確認することが示されています。

感染対策というと消毒薬やPPEに目が向きがちですが、

「掃除できる環境にしておく」こと自体が重要な感染対策です。

6.消毒薬を空間にスプレーしない

もう一つ重要なのが、消毒薬の使い方です。

感染症が発生すると、

「部屋全体に消毒薬をスプレーしたほうがよいのでは?」

という発想になりがちですが、消毒薬を空間に噴霧する方法は基本的に行いません。

厚生労働省の介護現場向け手引きでも、次亜塩素酸ナトリウムを含む消毒薬について、吸入による有害性や効果の不確実性から噴霧しないよう示されています。

CDCも、患者ケア区域における消毒薬のフォギングを推奨せず、霧やエアロゾルを発生させる広範囲な清掃方法を避けるよう示しています。

基本は、

適切な薬剤をクロス等に用いて、対象となる表面を清拭すること

です。

7.消毒薬は「何に効かせたいのか」で選ぶ

消毒薬は、どれを使っても同じではありません。

微生物によって消毒薬に対する抵抗性が異なるため、

「何を消毒したいか」ではなく、「何の病原体を対象としているか」

まで考えて選択する必要があります。

さらに、

  • 必要な濃度
  • 接触時間
  • 材質への影響
  • 人体への安全性
  • 使用できる場所
  • 製品の使用期限

なども確認します。

消毒薬は「強ければ強いほどよい」ものではありません。

CDCも、環境消毒薬について抗微生物スペクトルが製剤によって異なり、対象や目的に合わせた選択が必要であるとしています。

8.液体製品とクロス製品、どちらがよい?

施設で環境清拭を考える際には、大きく分けて

・液体製品を使用する方法
・あらかじめ薬液が含浸されたクロス製品を使用する方法

があります。

液体製品

液体製品は、広範囲を清掃・消毒する場合に使いやすいというメリットがあります。

一方で、

  • 希釈濃度を間違えない
  • 調製容器を適切に管理する
  • 調製日を管理する
  • 汚染されたクロスを薬液へ戻さない

といった管理が必要になります。

CDCも、清掃用薬液について施設の手順に従って必要時に新しく調製し、適切に交換するよう示しています。

そのため、施設で希釈して使用する製剤については、「とりあえず多めに作って長期間置いておく」という運用は避け、製品の説明書や施設のルールに沿って管理することが大切です。

クロス製品

近年は、あらかじめ洗浄・消毒成分を含浸した環境清拭用クロスにも、さまざまな微生物を想定した製品があります。

クロス製品には、

  • 調製や希釈が不要な製品が多い
  • すぐに使用できる
  • 濃度の調製ミスが起こりにくい
  • 現場で手順を統一しやすい

といったメリットがあります。

人員が限られる介護・保育施設などでは、手順を簡略化して同じ方法を再現しやすくできることは大きなメリットだと私は考えています。

ただし、

「ウエットクロスなら何でも消毒できる」

わけではありません。

対象となる微生物、使用できる材質、使用期限、開封後の管理方法などを確認し、フタを確実に閉めるなど、乾燥させない管理も必要です。

比較するための一覧を作ったので、製品選びの参考にしてください。

9.清拭は「きれいな場所から汚れた場所へ」「上から下へ」

清掃には基本となる順番があります。

原則は、

きれいな場所 → 汚染された場所

高い場所 → 低い場所

です。

先に汚れた場所を清掃してしまうと、そのクロスや清掃用具を介して汚染を広げる可能性があります。

また、低い場所を先に清掃してから高い場所を拭けば、上から落ちたほこりなどによって、再び下を汚してしまいます。

WHO・CDCも、環境清掃は清潔な場所から汚染された場所へ、高い場所から低い場所へ進めることを基本としています。

例えば病室なら、

テーブル・棚など
↓
ベッド周囲
↓
汚染の可能性が高い場所
↓
最後に床

と、一定の順番を決めておくと職員間で統一しやすくなります。

10.クロスは同じ面をいつまでも使わない

せっかく消毒成分を含んだクロスを使っていても、

汚れたクロスで施設内を延々と拭き続けては、汚染を広げる可能性があります。

クロスは折りたたんで使用し、一面を使ったらきれいな面へ変える。

汚れたり、十分な薬液を保持できなくなったら新しいものへ交換する。

エリアが変わる場合にも、必要に応じてクロスを交換する。

こうした運用が大切です。

WHOも、クロスを折って清潔な面を順番に使い、必要に応じて新しいクロスへ交換する方法を示しています。また、使用したクロスを清掃薬液の容器へ再び戻す「ダブルディッピング」は、薬液そのものを汚染するため避けるべきとしています。

11.基本は「一方向」に拭く

清拭するときは、

同じ場所をゴシゴシ往復するのではなく、一方向へ拭き進める

ことを基本にすると、手順を標準化しやすくなります。

例えば、

左から右へ拭く
↓
クロスのきれいな面へ変える
↓
少し範囲を重ねながら次の場所へ進む

という方法です。

WHOの環境清掃教材でも、清潔なクロス面を使いながら一方向に拭き進める方法が示されています。

重要なのは、一度集めた汚染を再び元の場所へ戻さないことです。

環境清掃は「消毒薬選び」だけではありません

環境清拭・消毒というと、

「何の消毒薬を買えばいいですか?」

という話になりがちです。

しかし、本当に確認していただきたいのは、

  • 誰が清掃するのか
  • いつ清掃するのか
  • どこまで清掃するのか
  • 何を使用するのか
  • どの順番で清掃するのか
  • 感染症発生時に誰から誰へ情報共有するのか
  • 実施したことを確認できるのか

という仕組みそのものです。

良い消毒薬を購入しても、清掃されない場所があったり、希釈方法が職員ごとに違ったり、汚れたクロスを使い続けたりしていては十分な対策にはなりません。

感染対策では、

「良い製品を使うこと」より、「誰が行っても同じように正しく実施できる仕組みを作ること」

が大切です。

今回を機会に、一度施設内を歩いて、

「この場所は誰が、いつ、どうやって掃除していますか?」

と確認してみてください。

意外な「誰も担当していなかった場所」が見つかるかもしれません。

「読んで終わり」ではなく、施設全体でできる状態へ。

感染対策は、知識として知っているだけでは十分ではありません。

職員一人ひとりが同じ考え方で、必要な場面に適切な対応ができる状態にしておくことが大切です。

  • 職員研修をしたい
  • 今のマニュアルを確認してほしい
  • 施設の感染対策を専門家に見てもらいたい

このようなご相談に対応しています。

→ つなぐ感染対策支援室のサービスを見る

【香川・岡山限定】冬前の感染対策相談モニター(無料)受付中

「今の感染対策、このままで大丈夫かな」
「ノロやインフルエンザが流行する前に、一度確認しておきたい」

そんな医療・介護・保育・訪問看護の皆さまを対象に、
先着5施設・60分無料で感染対策の相談モニターを募集しています。

▶ 冬前の感染対策相談モニターについて詳しく見る

もう少し詳しく現場を確認してほしい方へ

モニター相談ではなく、施設の現状確認や課題整理、簡易レポートまで希望される場合は、
「初回現場診断パッケージ」15,000円(税込)をご利用いただけます。

また、無料モニターの対象外地域からのご相談にも対応しています。

▶ 初回現場診断パッケージについて詳しく見る

コメント

タイトルとURLをコピーしました