香川県を拠点に、医療・介護・保育の現場で、感染対策の相談、職員研修、マニュアル・BCP整備など、現場に合った「無理なく続けられる感染対策」の支援を行っている、感染管理認定看護師の横山達也です。
先日、複数の介護施設からの相談の中でこのような質問をいただきました。
「ノロウイルスに汚染された衣類は、どのように処理したらいいですか?」
「全部捨てなければいけないのでしょうか?」
「また使用するには、どのように消毒すればいいですか?」
ノロウイルスによる嘔吐や下痢が発生したとき、床の吐物処理については手順が決まっていても、汚れてしまった衣類やシーツをどうすればよいのか分からないという施設は少なくありません。
結論からいうと、ノロウイルスに汚染された衣類だからといって、原則としてすべて廃棄する必要はありません。
ただし、そのまま通常の洗濯物と一緒に洗うのではなく、汚染物を適切に除去したうえで、洗濯・消毒する必要があります。
今回は、介護施設でノロウイルスによる嘔吐物や便が衣類・リネン類に付着した場合の基本的な対応について解説します。
ノロウイルスで汚れた衣類は捨てなくてもよい
「ノロウイルスが付いた衣類は全部捨てたほうが安全なのでは?」
と思われるかもしれません。
しかし、適切に洗浄・消毒できる衣類やリネン類であれば、必ずしも廃棄する必要はありません。
厚生労働省も、吐物や便が付着したリネン類について、汚物を取り除いた後に洗浄し、熱水や次亜塩素酸ナトリウムなどを用いて消毒する方法を示しています。
大切なのは、
「捨てるかどうか」よりも、「汚染を広げずにどのように処理するか」
です。
基本① まず便や吐物を飛び散らせないように取り除く
衣類に便や吐物が付着している場合、いきなり洗濯機へ入れるのは避けましょう。
便や吐物がたくさん付着したままだと消毒の効果が十分得られないためです。
まずは、付着している便や吐物などを静かに取り除きます。
このとき重要なのは、衣類を強く振ったり、汚染物を周囲に飛散させたりしないことです。
ノロウイルスを含む吐物などが乾燥すると、処理の際に細かな粒子が舞い上がり、それが口に入ることで感染につながる可能性があります。
処理する職員は、手袋やマスク、必要に応じて使い捨てエプロン・ガウンなどの個人防護具(PPE)を着用します。厚生労働省の「介護現場における感染対策の手引き」でも、嘔吐物等を処理するときには使い捨てのマスク、ガウン、手袋などを着用することが示されています。
基本② 他の洗濯物とは分けて取り扱う
汚染された衣類やリネン類は、通常の洗濯物とは分けて取り扱います。
たとえば、ノロウイルスによる嘔吐物が付着したパジャマを、他の利用者の衣類やタオルと一緒に洗濯機へ入れてしまうのは避けたいところです。
厚生労働省も、感染者が使用したものや嘔吐物が付着したものについて、他のものと分けて洗浄・消毒することを示しています。
居室から洗濯場所まで運ぶ場合も、汚染された衣類をむき出しの状態で持ち歩くのではなく、周囲を汚染しない方法で運搬することが重要です。
つまり感染対策では、
「どう洗うか」だけでなく、「洗濯場所までどう持っていくか」
まで考える必要があります。
基本③ 85℃・1分以上の熱水洗濯が可能なら有効
厚生労働省の「ノロウイルスに関するQ&A」では、下洗いしたリネン類について、
85℃・1分間以上の熱水洗濯
が適しているとされています。
施設に熱水洗濯が可能な設備があり、衣類やリネンの素材が熱水処理に対応している場合には、有効な方法の一つです。
洗濯後に高温の乾燥機を使用することも、感染対策上有効とされています。
ただし、すべての介護施設に業務用の熱水洗濯設備があるわけではありません。
小規模な介護事業所では、家庭用に近い洗濯機を使用しているケースも多いと思います。
では、その場合はどうするのでしょうか。
基本④ 熱水洗濯ができない場合は次亜塩素酸ナトリウムなどを検討
熱水洗濯ができない場合には、次亜塩素酸ナトリウムなどを使用した消毒が選択肢になります。
厚生労働省も、熱水洗濯ができない場合には次亜塩素酸ナトリウム等による消毒が有効としています。
ただし、ここには注意点があります。
次亜塩素酸ナトリウムはいわゆる「塩素系」の消毒薬です。
そのため、
- 色落ちする
- 生地を傷める
- 素材によっては使用できない
といった問題が起こる可能性があります。
「ノロウイルスだから、とりあえず塩素につければよい」と考えるのではなく、衣類の素材や製品表示、使用する消毒薬の説明書などを確認することが必要です。
「洗濯機に入れれば終わり」ではありません
ここが介護施設の感染対策で特に重要なところです。
ノロウイルスに汚染された衣類への対応を考えるとき、
「何℃で洗えばいい?」
「どの消毒薬を使えばいい?」
という部分に目が向きがちです。
しかし、実際の施設内感染を防ぐためには、それだけでは不十分です。
たとえば、
- 誰が汚染された衣類を処理するのか
- 処理するときにどのPPEを使用するのか
- 汚染衣類をどこで下処理するのか
- 居室から洗濯場所までどう運ぶのか
- 他の利用者の衣類とどう分けるのか
- 処理後にどこを清掃・消毒するのか
- 処理した職員が最後にどのように手指衛生を行うのか
まで決めておく必要があります。
感染対策は、消毒薬の知識だけではなく、施設内で実際に職員が動ける仕組みにすることが大切です。
ノロウイルス感染症発生時に「その場で考える」のは難しい
利用者が突然嘔吐した。
衣類もシーツも汚染されている。
そのときになって、
「これ、洗濯していいの?」
「どこで下洗いする?」
「塩素につける?」
「他の洗濯物はどうする?」
「この服、塩素につけたら色落ちしない?」
と職員同士で相談し始める。
こうした状況では、対応が職員ごとにバラバラになりやすく、感染を広げる原因にもなります。
だからこそ、平時から、
「嘔吐物が衣類やリネンに付着したときはこうする」
という施設内の基本ルールを決めておくことが重要です。
立派な分厚いマニュアルを作る必要はありません。
現場の職員が見て、
「この場合は、ここに入れて、この場所まで運んで、この方法で処理する」
と分かる手順になっていることの方が大切です。
まとめ|ノロウイルスで汚染された衣類は適切に処理すれば再使用できます
ノロウイルスによる吐物や便で汚染された衣類・リネン類は、原則としてすべて廃棄する必要はありません。
基本的なポイントは、
- 便や吐物を飛散させないよう静かに取り除く
- 他の洗濯物とは分けて取り扱う
- 可能であれば85℃・1分以上の熱水洗濯を行う
- 熱水処理が難しい場合は次亜塩素酸ナトリウム等による消毒を検討する
- 次亜塩素酸ナトリウムによる色落ちや素材への影響にも注意する
- 処理する職員のPPE、運搬方法、洗濯場所なども含めて手順を考える
という点です。
そして何より大切なのは、インターネットで見つけた方法をそのまま当てはめるのではなく、自施設の設備や職員体制に合わせて、実際に続けられる方法を決めておくことです。
「うちの施設ではどうすれば?」と迷ったら
この記事では、ノロウイルスに汚染された衣類・リネン類の一般的な対応方法をご紹介しました。
しかし実際には、
「熱水洗濯ができる設備がない」
「色柄物にはどう対応すればいい?」
「今の洗濯手順で感染対策上問題がないか確認したい」
「嘔吐物処理から洗濯まで、職員によって対応が違う」
「マニュアルはあるけれど、現場で実践できていない」
など、施設によって悩むポイントは異なります。
つなぐ感染対策支援室では、介護施設・医療機関・保育施設などを対象に、感染対策の個別相談を行っています。
訪問し、実際の設備や環境を見ながら相談する場合、香川県を中心に中四国、関西圏の一部まで対応としています。(より遠方の場合でも日程によっては対応可能な場合もありますのでご相談ください)
また、訪問が難しい場合でもオンラインでの相談にも対応しています。
単に「正しい方法」をお伝えするだけではなく、現在の設備や職員体制、日々の業務を伺いながら、その施設で無理なく続けられる方法を一緒に整理します。
「今やっている方法で大丈夫か、一度専門家に確認してほしい」
という段階でも構いません。
感染対策で判断に迷っていることがありましたら、つなぐ感染対策支援室のお問い合わせフォームよりご相談ください。
※本記事は一般的な感染対策について解説したものであり、個々の施設の設備・対象者・発生状況等によって必要な対応は異なります。
【参考】
厚生労働省「ノロウイルスに関するQ&A」
厚生労働省「介護現場における感染対策の手引き 第3版」




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