こんにちは。香川県を拠点に、医療機関や介護施設などの感染対策を支援している「つなぐ感染対策支援室」です。
今回は、日常ケアの中で取り組める「誤嚥性肺炎の予防」についてお話しします。
誤嚥性肺炎は、高齢者や嚥下機能が低下した方にとって身近な疾患です。発症すると、患者さんや利用者さんの健康状態が悪化するだけでなく、病院や介護施設の運営にも影響が生じます。
一方で、その予防には特別な設備が必要とは限りません。口腔ケア、喀痰吸引、食事介助、経管栄養など、普段行っているケアを見直すことが重要です。
誤嚥性肺炎が病院・施設の運営に与える影響

国内のDPCデータを用いた2016年の研究では、入院後に誤嚥性肺炎を発症した患者さんは、発症しなかった類似の患者さんと比較して、平均17.2日の在院日数延長、平均61.9万円の入院医療費増加が認められました。
また、2025年度の病院指標で示された誤嚥性肺炎の全国平均在院日数は、対象となるDPC分類で20.49日でした。
これらは異なる指標ですが、誤嚥性肺炎が医療資源に大きな影響を与えることを示しています。
病院では、入院の長期化に伴う病床運用への影響、追加の看護・医療処置、退院調整などの負担が生じます。
介護施設では、利用者さんの入院によって空床が発生し、施設類型や報酬算定条件によっては収入が減少することがあります。退院後も身体機能が低下し、以前と同じ生活に戻れない可能性があります。
訪問看護ステーションでも、入院による訪問の中断や退院後のケア調整などが必要になります。
ただし、増加した医療費が、そのまま病院の経済的損失になるわけではありません。医療機関や施設の収支への影響は、診療報酬・介護報酬の仕組みや稼働状況によって異なります。
誤嚥性肺炎を予防することは、利用者さんの生活を守るとともに、医療・介護サービスを安定して提供するための取り組みでもあるのです。
① 口腔ケア|清潔だけでなく、快適さと継続しやすさを考える

誤嚥性肺炎の予防では、口腔内の細菌量を管理することが重要です。
食事をしていない方でも、口腔内の細菌は増殖します。特に経管栄養中の方は口腔内が乾燥しやすく、口腔ケアを省略しないことが大切です。
日常ケアでは、次の点を確認しましょう。
- 歯や舌、粘膜、義歯の状態を観察する
- 歯ブラシなどで歯垢を機械的に除去する
- 乾燥がある場合は保湿を取り入れる
- 歯ブラシなどの物品は個別に管理し、洗浄後は十分に乾燥させる
口腔ケア用品にも、さまざまな選択肢があります。
例えば吸引機能付き歯ブラシは、うがいや吐き出しが難しい方に役立つ場合があります。一方、すべての患者さんに高価な物品を使用する必要はありません。
歯ブラシ、スポンジブラシ、保湿剤などを、口腔状態や嚥下機能に合わせて選択することが大切です。
また、物品の価格だけでなく、ケアに必要な時間、職員の負担、患者さんの清涼感や快適さも考慮したいところです。
② 喀痰吸引|適切な手技と感染対策を再確認する

喀痰吸引は、気道内の分泌物を除去するために必要な処置ですが、不適切な手技は粘膜損傷や低酸素、微生物の持ち込みにつながるおそれがあります。
特に次の点を確認しましょう。
- 吸引前後に手指衛生を行う
- 手袋を着用し、分泌物の飛散が予想される場合はマスク、アイシールド、エプロンなどを使用する
- 気管内吸引では清潔操作を守り、カテーテルの挿入部分を汚染しない
- カテーテルの再使用や保管方法は、吸引部位・製品・施設の手順に従う
- 吸引中は呼吸状態、酸素飽和度、表情などを観察する
吸引は必要な場合に実施し、漫然と繰り返さないことも重要です。
また、気管内吸引と口腔・鼻腔吸引では求められる清潔操作が異なります。施設のマニュアルがそれぞれに対応しているか確認しておきましょう。
③ 経管栄養|30~45度の上体挙上と体位の安定

経管栄養中は、胃内容物の逆流や誤嚥に注意が必要です。
人工呼吸管理中の経管栄養患者を対象とした肺炎予防指針では、上体を30~45度挙上することが推奨されています。
ただし、この数値をすべての経管栄養患者さんに一律に当てはめるのではなく、全身状態や禁忌、耐容性を確認する必要があります。
ここで注意したいのが、ベッドの背上げ角度だけでなく、実際の患者さんの姿勢です。
ギャッジアップしていても、身体が足元へずれ、骨盤が滑っていることがあります。
背中や骨盤、必要に応じて下肢をクッションなどで支持し、無理のない姿勢を整えましょう。
また、栄養投与中の咳込み、嘔吐、腹部膨満、呼吸状態の変化などにも注意が必要です。
④ 食事介助|一口量と姿勢を見直す

食事介助は毎日行うケアですが、ちょっとした姿勢や介助方法の違いが誤嚥のリスクに影響します。
確認したいポイントは次のとおりです。
- 座位では足底が床や足台に安定して接しているか
- 骨盤が後方へ滑り、身体がずれていないか
- 頸部が過度に後屈していないか
- 一口量が本人の嚥下能力に合っているか
- 大きすぎるスプーンを使用していないか
- 飲み込んだことを確認してから次の一口を介助しているか
特に、介助者のペースで次々と食べ物を口に運んでいないか、確認したいところです。
むせ込みだけでなく、食後の湿った声、呼吸状態の変化、食事中の疲労などにも注意しましょう。
適切な食形態や介助方法は、看護師、言語聴覚士、管理栄養士、歯科専門職などと連携して検討することが大切です。
誤嚥性肺炎の予防は「特別な対策」より「日常ケアの質」
今回紹介した4つの対策は、すでに多くの病院や介護施設で実施されているものです。
しかし、「実施していること」と「適切に実施できていること」は必ずしも同じではありません。
例えば、口腔ケアの物品は適切か、吸引時の手指衛生は守られているか、食事介助時の姿勢は安定しているか。
日常のケアを改めて観察すると、小さな改善点が見えてくるかもしれません。
誤嚥性肺炎は、どれほど注意していても完全に防げるものではありません。嚥下機能や基礎疾患、栄養状態なども関係するため、多職種での評価と対応が欠かせません。
大切なのは、職員の努力だけに頼るのではなく、誰もが無理なく適切なケアを続けられる環境を整えることです。
日常ケアの感染対策、一緒に見直してみませんか?
「口腔ケアの方法はこれでいいのかな?」
「喀痰吸引時の感染対策を確認したい」
「職員によって食事介助やケアの方法が違う」
日々のケアの中で、このような疑問やお悩みはありませんか?
つなぐ感染対策支援室では、感染管理認定看護師が、病院・介護施設・訪問看護ステーションなどを対象に、感染対策の相談や現場ラウンド、職員向け学習会を行っています。
また、2026年11月からは、全国の施設を対象としたオンライン相談(60分・15,000円)を開始しました。
施設管理者の方はもちろん、現場でケアを行う看護師・介護職員の皆さんからのご相談も歓迎しています。
大切にしているのは、正しい方法を一方的にお伝えすることではなく、現場の状況に合わせて、無理なく続けられる方法を一緒に考えることです。
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