はじめに
こんにちは、つなぐ感染対策支援室の横山です。
2026年5月時点で、香川県で最も多く確認されている感染症は感染性胃腸炎です。
これは主に小児科領域で確認されている件数になるので、小児科以外の医療機関や介護施設ではあまり実感が湧かないかも知れません。
しかし感染性胃腸炎は家庭内感染などあらゆる経路をたどり医療機関や介護施設内にやってくることがあります。
ある日突然、職員や入院患者、利用者が嘔吐や下痢症状を呈し、その1〜2日後にさらに4〜5人が発症、という展開は結構あるあるな事例かと思います。
一度広がると収束するまで数週間を要し、患者さんや利用者さんが重症化したり、マンパワーが足りなくなったりとその影響は甚大です。
感染性胃腸炎が施設内で広がる原因の一つに、不適切な排泄物や吐物処理が挙げられます。
特に吐物は思いがけないところで突発的に発生し、周囲の環境や居合わせた人が暴露を受けやすい傾向があります。
この吐物は”適切な初動対応”を行うことで、悲惨な感染拡大を防ぐことが可能です。
今回は特に病院や介護施設における初動対応についてまとめました。この初動対応は「誰でも同じ手順で対応できる」ことが重要です。ぜひご施設のマニュアルなどの再確認にお役立てください。
※保育施設向けの吐物処理は後日、別記事にてご紹介します。
嘔吐物処理の基本原則
- 嘔吐物は高濃度の病原体を含む感染源として扱う
- 処理時の曝露防止と環境汚染の最小化が目的
- 手順の標準化と迅速な初動対応が重要
処理前の準備(初動対応)
- 嘔吐を確認したら、速やかに周囲を立入禁止とする
- 患者・利用者、スタッフを含め、処理を行うスタッフ以外は近づけない
- 窓開放などによる換気の確保
- 処理物品の準備
- 使い捨て手袋
- ガウン(またはエプロン)
- マスク、必要に応じてアイシールド
- ペーパータオル
- 次亜塩素酸ナトリウム溶液
- 廃棄用ビニール袋(二重)
個人防護具(PPE)の着用
- 手袋、ガウンは必須
- 顔への飛散リスクがあるためマスク、フェイスシールドも推奨
嘔吐物処理の具体的手順
① 汚染範囲の把握
- 嘔吐物は目に見える範囲より広く飛散する
- 半径約2mを目安に汚染区域を設定

椅子に座った状態や、立った状態から床まで吐物が落ちると、想像以上に飛び散ってしまいます。
吹き残しや消毒漏れが起きると、吐物が乾燥した後にウイルスが飛散することがあるため、広範囲にわたって作業を行う必要があります。
② 嘔吐物の除去
- ペーパータオル等で覆う
- 外側から中心に向かって集める
- 汚染拡大防止のため
- 回収物はすぐにビニール袋へ

吐物が残っていると、この後の消毒効果が弱まってしまします。
吐物は可能な限り、このときに取り除いておきましょう。
ペーパータオルの代わりにペットシーツなどを使用しても良いでしょう。
③ 消毒
- 次亜塩素酸ナトリウム溶液で消毒
- 希釈方法:0.1%(1000ppm→水1Lに次亜塩素酸Naを20ml混ぜる)
- 半径2mの範囲にペーパータオルを敷き詰め、そこに希釈液をかける
- 汚染部位を十分に湿らせ、一定時間(10分程度)接触させる
- 床だけでなく周囲の接触面も消毒対象とする
④ 清拭
- 消毒後、必要に応じて水拭き
- (二次汚染を防ぐためペーパータオルや使い捨てウエスを使用する)
⑤ 廃棄
- 使用した物品はすべて感染性廃棄物として扱う
- ビニール袋は二重に密封(一重では袋表面が汚染した場合、周囲を汚染する可能性があるため)
PPEの脱衣と手指衛生
- 汚染の多い順で外すことが重要
- 手袋 → ガウンの順で外す
- 外した後は速やかに流水と石鹸で手洗い
- アルコールのみでは不十分な場合がある(特にノロウイルス)

手洗いは30秒以上かけて、しっかり泡立てた石鹸で行いましょう。
指先、手の甲や手首は洗い残しがちな部位なので、とくに意識して洗いましょう。
よくある誤解と注意点
新聞紙は使用してよいか?
- 結論:消毒の際に使用することは推奨されない
- 理由:
- 印刷インクにより次亜塩素酸ナトリウムの有効塩素が消費される可能性
- 液体吸収後の強度が不十分で処理が困難
- → ペーパータオルなどを使用
※厳密なエビデンスは限定的ですが、実務上は避けるのが一般的です。
なぜ2mの範囲なのか?
- 嘔吐時の飛散はエアロゾル・飛沫として広がる
- 研究では数メートル範囲に拡散する可能性が示されている
- → 安全を考慮し、2mを目安とするのが一般的
現場で大切にしたいポイント(実践的まとめ)
- 現場を封鎖し、関係者以外を入れない
- PPEを確実に着用する
- 汚染は広く(2m)見積もる
- 外側から中心へ処理する
- 新聞紙は使わない
- 処理後は確実な手洗い
おわりに
嘔吐物処理は「誰がやっても同じ質でできる仕組み」が重要です。
嘔吐事案が発生した際に、すぐに対応できるようあらかじめ個人防護具や消毒液、ペーパータオルなどをセット化して配置しておくことは特に有効な手立てです。
しかし正しい手順で作業ができないと、その効果を最大限に発揮るすことはできません。
普段から全ての職員が正しい対応ができるよう、教育と訓練が必要です。
お問い合わせ
つなぐ感染対策支援室では、吐物処理の実践型学習会を承っております。
また「自施設の対策を一度見てほしい」というご相談、
感染対策マニュアルの見直しも対応いたします。
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