災害関連死を防ぐために|平時から考えたい災害時の感染対策

感染対策

香川県を拠点に、医療・介護・保育の現場で、感染対策の相談、職員研修、マニュアル・BCP整備など、現場に合った「無理なく続けられる感染対策」の支援を行う、感染管理認定看護師の横山達也です。

最近、私が特に力を入れているテーマのひとつが、「災害時の感染対策」です。

現在、県内の行政機関や自治体の担当者の方々と、災害時の感染対策や避難所における支援について意見交換をさせていただく機会をいただいています。

具体的な内容については控えますが、こうした意見交換を通して改めて感じているのが、
「災害時の感染対策は、感染症の流行を防ぐためだけのものではない」
ということです。

災害時に怖いのは、災害そのものだけではありません

大規模な災害が発生すると、避難所などでは多くの方が限られた空間で生活することになります。

水や物資が不足したり、十分な手洗いができなかったり、トイレや生活環境を清潔に保つことが難しくなったりすることも考えられます。

さらに、高齢者や基礎疾患のある方、医療的なケアを必要とする方、介護を必要とする方にとっては、普段受けているケアをこれまで通り続けること自体が難しくなる可能性があります。

こうした環境では、感染症の発生や体調悪化のリスクも高まります。

だからこそ、災害が起きた直後の安全確保だけではなく、その後の生活の中で健康状態を悪化させないための備えも重要だと考えています。

「感染対策」というと、何を思い浮かべますか?

避難所の感染対策と聞くと、
「感染症の人を別の場所に分ける」
「マスクを着ける」
「手指消毒剤を準備する」
といった対策を思い浮かべる方が多いかもしれません。

もちろん、これらも大切です。

しかし、感染管理の視点から考えると、それだけではありません。

例えば、

  • 口腔内を清潔に保つための口腔ケア
  • 排泄後の清潔を保つための排泄・陰部ケア
  • 身体を清潔に保つための清潔ケア
  • 尿道留置カテーテルなどを使用している方への適切なカテーテル管理
  • 必要な場面での手指衛生や個人防護具の使用

こうしたものも、感染症を防ぐうえで重要な取り組みです。

そして、どれも医療機関や介護施設では特別なことではなく、普段から行われている日常的なケアです。

大切なのは「特別な感染対策」ではなく、「いつものケア」を止めないこと

災害時には、普段当たり前に行っていることが、当たり前にはできなくなります。

  • 水が十分に使えない
  • 物品が足りない
  • いつもの設備が使えない
  • 避難所という普段とはまったく違う環境でケアをしなければならない

そのような状況で、「平時とまったく同じケアをしましょう」と言っても現実的ではありません。

だからこそ平時から、

限られた人員・物資・設備の中で、必要なケアをどう継続するのか

を考えておく必要があります。

例えば、

  • 水が十分に使えない状況で清潔をどう保つのか
  • 口腔ケアに必要な物品をどう確保するのか
  • 医療的ケアが必要な方をどこで受け入れ、誰が状態を確認するのか
  • カテーテルを使用している方のケアをどう継続するのか
  • 感染症が疑われる方が発生した場合、避難所の中でどのように動線やスペースを分けるのか

こうしたことを災害が起こってから考えるのではなく、平時から想定しておくことが重要です。

福祉避難所となる介護施設にも「受け入れるための備え」が必要です

災害時の感染対策を考えるうえで、もうひとつ重要だと感じているのが福祉避難所の存在です。

介護施設などの社会福祉施設の中には、市町村から福祉避難所として指定されたり、協定を結んだりして、一般の避難所で生活することが難しい高齢者や障害のある方、医療的なケアを必要とする方などを受け入れる役割を担う施設があります。

こうした施設では、災害が起きた際に「自施設の利用者を守る」ことに加えて、地域から避難してくる要配慮者を受け入れることも想定しておく必要があります。

しかし、大規模災害が発生すれば、施設そのものも被災しているかもしれません。

  • 職員が出勤できない
  • 水や電気が十分に使えない
  • 食料や衛生用品が不足している

そのような中で、普段施設を利用していない方を新たに受け入れ、必要なケアを提供することになります。

例えば、

  • 何人程度まで受け入れることができるのか
  • どのような状態の方を受け入れることを想定しているのか
  • どのスペースを使用するのか
  • 必要な人員をどのように確保するのか
  • 食事、排泄、清潔、口腔ケアなどをどう継続するのか
  • 医療的ケアが必要な方にどこまで対応できるのか
  • 感染症が疑われる方を受け入れた場合、どこでどのように対応するのか
  • 必要な物品をどの程度備蓄しておくのか
  • 施設だけでは対応できない場合、行政や医療機関などとどのように連携するのか

こうしたことを、発災してから一つひとつ判断するのは容易ではありません。

特に感染対策の視点では、単にマスクや手指消毒剤を備蓄しておくだけではなく、受け入れた方に必要な日常のケアを、限られた環境の中でどう継続するかまで考えておくことが重要だと考えています。

もちろん、福祉避難所として求められる役割や受入対象者、受入方法などは地域や施設によって異なります。

だからこそ、自施設のBCPを整備するだけでなく、

「自分たちの施設は、地域の中で災害時にどのような役割を求められているのか」

を平時から行政などの関係機関と確認し、その役割を実際に果たすためには何が必要なのかを具体的にしておくことが大切ではないでしょうか。

福祉避難所を「指定されている場所」で終わらせず、実際に人を受け入れ、必要なケアを継続できる場所にするための備え

これも、災害時の感染対策を考えるうえで重要なテーマのひとつだと感じています。

適切なケアを続けることは、地域の医療を守ることにもつながる

避難所や福祉避難所などで適切な感染対策やケアを続けることには、もうひとつ大切な意味があります。

それは、被災地域の医療機関への負担をできるだけ増やさないことです。

大規模災害では、医療機関そのものが被災する可能性があります。

職員が出勤できない、医療資材が不足する、通常の診療体制を維持できない――。

その一方で、多くの傷病者への対応も求められます。

そうした状況で、避難生活中の感染症やケア不足などによって体調を崩す方が増えれば、地域の医療機関にはさらに大きな負担がかかります。

  • 避難所などで感染症の発生をできるだけ防ぐこと
  • 医療的ケアや介護を必要とする方が、必要なケアを継続して受けられること
  • 体調の変化を早期に捉え、必要な支援につなげること

これらは、被災者一人ひとりの健康を守るだけでなく、限られた地域医療の力を本当に必要な方へ届けることにもつながると考えています。

災害時の感染対策を「平時」から考える

災害がいつ起こるのかを正確に予測することはできません。

だからこそ、何も起きていない今のうちに、

「もし明日、災害が起きたら、この地域・この施設ではどうするのか」

を具体的に考えておくことが大切です。

避難所のゾーニングや感染症発生時の対応だけでなく、口腔ケア、排泄・清潔ケア、カテーテル管理など、普段行っているケアを災害時にどう継続するのか。

医療的ケアや介護を必要とする被災者を、地域の中でどう支えていくのか。

こうした視点を平時から防災計画やBCP、訓練の中に取り入れておくことが、災害関連死を防ぐための備えのひとつになると考えています。

現在、私自身も行政機関や地域の関係者の方々との意見交換を重ねながら、感染管理認定看護師として地域の防災・減災にどのような形で貢献できるのかを考えています。

感染対策は、感染症が発生してから始めるものではありません。

そして災害対策も、災害が起きてから始めるものではありません。

平時に行っている感染対策やケアを、非常時にも可能な限り続けられる仕組みをつくっておく。

そのことが、災害時に一人でも多くの方の健康と命を守ることにつながるのではないかと思っています。

つなぐ感染対策支援室では、医療機関・介護施設等における災害時の感染対策、BCPやマニュアルの整備、職員研修などについてもご相談をお受けしています。

「自施設の災害時の感染対策を一度見直してみたい」

「BCPは作成しているけれど、感染対策や日常ケアまで十分に考えられていない」

「災害時の感染対策について職員研修を行いたい」

といったご相談がありましたら、お気軽にお問い合わせください。

現在、期間限定の「感染対策課題整理サポート」も実施しています。
詳しくは下記の記事をご覧ください。

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