インフルエンザ疑いが1人出たら?介護・保育施設で最初に行いたい感染対策

感染対策

香川県を拠点に、医療・介護・保育の現場で、感染対策の相談、職員研修、マニュアル・BCP整備など、現場に合った「無理なく続けられる感染対策」の支援を行う、感染管理認定看護師の横山達也です。

現在9月ですが、全国的にインフルエンザの流行期に入っています。

施設内で、

「利用者さんが急に発熱した」
「いつもより元気がなく、咳も出ている」
「園児に発熱と呼吸器症状がみられる」

このような状況が起こることがあります。

このとき大切なのは、

「インフルエンザと診断されてから感染対策を始める」のではなく、疑った段階から動き始めることです。

検査結果を待っている間にも、感染が広がってしまう可能性があります。

今回は、介護施設・保育施設でインフルエンザが疑われる人が1人出たときに、まず確認してほしい初動対応について解説します。


まず大切なのは「1人出た」という情報を施設内で共有すること

インフルエンザが疑われる人が見つかったとき、私はまず、

一度立ち止まり、関係するスタッフで情報を共有する

ことが重要だと考えています。

もちろん、利用者さんへのケアや保育をすべて止めるという意味ではありません。

数分でも構いません。

「どこで、誰に、どのような症状が出ているのか」

を関係スタッフで共有し、ここから感染を広げないための対応を確認します。

その際には、

  • 手指衛生
  • 咳エチケット
  • 必要な場面での不織布マスク
  • 血液・体液・分泌物への曝露が予想される場合の手袋やエプロン等
  • PPEを外したあとの手指衛生

など、標準予防策と飛沫感染対策を改めて確認します。

感染症が発生すると、

「とにかく手袋を二重にしよう」
「全員ガウンを着よう」

と、必要以上にPPEを追加してしまうことがあります。

しかし、大切なのはPPEをたくさん着けることではありません。

その場面でどのような曝露が予想されるのかを考え、必要なPPEを適切に使用することです。


インフルエンザ疑いが出たときに確認したい8つのこと

① 疑わしい症状がある人を、まず他の人から離す

最初に行いたいのは、症状がある人と周囲の人との接触をできるだけ減らすことです。

介護施設であれば、可能であれば個室で過ごしてもらいます。

厚生労働省の「介護現場における感染対策の手引き」でも、インフルエンザが疑われる場合は基本的に個室対応とし、職員はケア時に不織布マスクを着用することが示されています。

個室が確保できない場合には、

  • 周囲との距離を確保する
  • カーテン等も活用する
  • 同じような症状がある人をまとめる
  • ケアを行う職員や動線をできる範囲で整理する

といった方法を検討します。

保育施設の場合は、感染症が疑われる子どもを医務室などの別室へ移動させ、症状や経過を記録し、保護者へ連絡することが基本となります。

ただし、乳幼児については年齢や安全性、体調も考慮する必要があります。

「感染者を隔離すること」そのものを目的にするのではなく、他の利用者・入所者・園児との接触機会を減らすことを目的に考えましょう。


② 一度スタッフ間で情報共有する

次に、

「インフルエンザを疑う人が1名いる」

という情報を、そのエリアで勤務しているスタッフへ共有します。

ここで改めて、

  • 手指衛生
  • 飛沫感染対策
  • PPEの使用方法
  • 症状のある人の対応方法
  • ケアを行う順番
  • 使用する物品

などを確認しておきます。

感染対策担当者や管理者だけが状況を知っていても、実際に利用者さんと接するスタッフへ情報が届いていなければ感染対策は機能しません。

逆に、早い段階でスタッフ全員が同じ認識を持つことができれば、その後の感染拡大を防げる可能性が高くなります。


③ ほかに症状がある人がいないか確認する

1人の発熱者を見つけると、どうしてもその人への対応に集中しがちです。

しかし、ここで非常に重要なのが、

「本当にこの1人だけなのか?」

という確認です。

同じフロア・ユニット・クラスなどで、

  • 発熱
  • 鼻汁
  • 咽頭痛
  • 倦怠感
  • 食欲低下
  • 活動性の低下

などがみられる人がいないか確認します。

特に高齢者では、インフルエンザに感染していても典型的な高熱がみられない場合があります。普段より元気がない、食事量が減った、臥床時間が長いといった変化にも注意が必要です。

保育施設でも、「38℃以上だから感染症」「熱がないから問題なし」と体温だけで判断せず、機嫌・食欲・活動性・咳などを含めて観察することが重要です。


④ 発症者・有症状者を一覧にしておく

複数人に症状がみられ始めた場合に備えて、

早い段階から記録を残しておくこと

もおすすめします。

例えば、

氏名場所症状発症日時体温受診・検査経過
Aさん2階発熱・咳9/7 10時頃38.2℃受診予定経過観察

といった簡単なもので構いません。

1人目、2人目、3人目と増えてきたときに記憶だけで管理しようとすると、

「最初に症状が出たのは誰だった?」
「どの部屋に集中している?」
「職員にも同じ症状が出ていない?」

といった重要な情報が分からなくなります。

発症日時と場所を整理すると、感染の広がり方も見えやすくなります。

厚生労働省の手引きでも、発生時には他の利用者の症状を確認し、施設全体の発生状況を把握することが重要とされています。


⑤ 必要な範囲でゾーニングを行う

インフルエンザが疑われる人がいる場所と、症状のない人が過ごす場所をできるだけ分けます。

いわゆる「ゾーニング」です。

ただし、

1人発生したからといって、すぐにフロア全体を大規模なレッドゾーンにする必要があるとは限りません。

まずは、

  • 症状のある人が過ごす場所
  • 症状のない人が過ごす場所
  • 職員の動線
  • 共用するトイレ
  • 食事場所
  • 共用物品

などを確認します。

例えば介護施設なら、

症状のない利用者 → 症状のある利用者

の順にケアを行う、可能であれば担当職員を分ける、といった方法も有効です。

共有する物品についても、

「これは別にした方がよいのではないか」

と一つずつ整理します。

ゾーニングの目的は、テープを貼って色分けすることではありません。

人・物・職員の動きを整理し、感染が広がる機会を減らすことです。

テープによる色分けはそれを可視化するための手段の一つです。


⑥ 高頻度接触面を清拭する

次に環境を確認します。

インフルエンザは主に飛沫によって感染しますが、ウイルスが付着した環境表面を手で触り、その手で鼻や口などに触れることで感染する可能性もあります。

そのため、

  • ドアノブ
  • 手すり
  • テーブル
  • 椅子の肘掛け
  • スイッチ
  • リモコン
  • 共用タブレット
  • 蛇口
  • トイレ周辺

など、多くの人が触れる場所を中心に清拭します。

ポイントは、

「フロア中をとにかく消毒する」のではなく、感染リスクの高い場所を考えて清拭すること。

また、消毒薬を室内や物品へむやみにスプレー噴霧するのではなく、適切な薬剤を使用して表面を清拭することが基本です。

ここはまた別の記事で、環境清拭の方法について詳しく解説したいと思います。


⑦ 他のフロア・クラスにも情報を共有する

症状が出たフロアだけで対応を完結させないことも重要です。

施設内では、

  • 職員
  • 共用設備
  • リハビリ
  • 入浴
  • レクリエーション
  • 食事
  • 送迎

などを通して、普段からさまざまな人が行き来しています。

そのため、

「○階でインフルエンザを疑う利用者が1名出ています」

など、必要な範囲で他部署・他フロアにも情報共有します。

そして他のフロアでも、

「発熱している人はいないか」
「咳が増えている人はいないか」
「体調不良のスタッフはいないか」

を確認します。

同時に、感染状況が明らかになるまでは、フロアをまたぐ不要不急の人・物の移動を減らせないか検討します。

感染拡大を早期に把握するには、

「最初の1人を対応すること」と「2人目を探すこと」を同時に行う

という考え方が大切です。


⑧ 管理者は「感染対策」と同時に「施設運営」を考える

ここは現場スタッフだけでは対応できません。

管理者・管理部門には、同時に施設運営について確認してほしいと思います。

特に確認したいのは、

  • 職員にも症状が出ていないか
  • 今後、欠勤者が増えた場合の勤務体制
  • 応援職員の確保
  • フロアをまたぐ勤務の見直し
  • PPEや消毒薬などの在庫
  • 食事・排泄・入浴・医療的ケアなど継続しなければならない業務
  • 家族・保護者への情報提供方法
  • 協力医療機関や嘱託医との連携
  • 感染症BCP・感染症対応マニュアルの内容

です。

感染者が1人の段階では通常業務を行えていても、数日後に職員を含めて感染者が増える可能性があります。

だからこそ、

「人数が増えてからBCPを見る」のではなく、最初の1人が出た段階で確認する

ことをおすすめします。

「5人休んだら、誰がどこを担当する?」
「入浴は通常通り続ける?」
「面会はどうする?」
「誰が家族への連絡を担当する?」

こうしたことを感染が広がっている最中に一から話し合うのは大変です。

BCPは作成して保管しておくための書類ではなく、こうした場面で実際に使えるものであることが重要です。


医療機関への相談・受診にも早めにつなげる

感染拡大防止だけでなく、症状のある本人への対応も重要です。

特に高齢者や基礎疾患のある方などでは重症化する可能性があるため、インフルエンザを疑った場合には、施設の協力医療機関やかかりつけ医等へ相談し、必要な診察・治療につなげます。

厚生労働省の手引きでも、インフルエンザを疑う症状がある場合には早めに医師の診察を受け、重症化する前に治療につなげることが重要とされています。

保育施設では、保護者へ症状と経過を正確に伝え、必要に応じて嘱託医・看護師等へ相談するとともに、受診結果について施設側へ伝えてもらうことも大切です。


発生状況によっては行政への報告も確認する

社会福祉施設等では、感染症の発生状況によって市町村等の主管部局や保健所への報告が必要となる場合があります。

国の通知では、例えば、

  • 同一の感染症による死亡者・重篤患者が1週間以内に2名以上
  • 同一の感染症の患者または疑われる人が10名以上、または全利用者の半数以上
  • 上記に当てはまらなくても、通常を上回る感染症の発生が疑われ、施設長が報告を必要と判断した場合

などが報告の目安として示されています。

実際の対応は施設種別や自治体によって異なる場合がありますので、自施設では「何人出たら、どこへ、誰が連絡するのか」まで確認しておきましょう。


大切なのは「陽性になるまで待たない」こと

インフルエンザが疑われる人が1人出たとき、

「まだ検査していないから」
「インフルエンザと決まったわけではないから」

と通常通りの対応を続けてしまうと、その間に感染が広がってしまうことがあります。

一方で、感染症が出たからといって、必要以上に施設全体を止める必要もありません。

大切なのは、

疑いの段階から必要な対策を始め、状況を把握しながら対策の範囲を調整することです。

最初の1人を見つけたら、

  1. 症状のある人を他の人から離す
  2. スタッフへ情報共有する
  3. 他に症状のある人がいないか確認する
  4. 発症状況を記録する
  5. 必要な範囲でゾーニングする
  6. 高頻度接触面を清拭する
  7. 他部署・他フロアへ情報共有する
  8. 管理者が職員配置やBCPを確認する

ここまでを、なるべく早く動かしてみてください。

感染症対応は、感染対策担当者1人だけが頑張っても十分には機能しません。

現場スタッフ、管理者、医療職、事務職などがそれぞれ「自分は何をするのか」を理解している施設ほど、いざというときに動きやすくなります。

自施設のマニュアルを見ながら、

「明日、利用者さんが1人発熱したら、私たちは本当にこの通り動けるだろうか?」

一度、職員の皆さんで確認してみてください。


「読んで終わり」ではなく、施設全体でできる状態へ。

・職員研修をしたい

・今のマニュアルを確認してほしい

・施設の感染対策を専門家に見てもらいたい

このようなご相談に対応しています。

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参考資料

厚生労働省「介護現場における感染対策の手引き 第3版」

厚生労働省「インフルエンザ施設内感染予防の手引き」

こども家庭庁「保育所における感染症対策ガイドライン」

厚生労働省「社会福祉施設等における感染症等発生時に係る報告について」

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