こんにちは、つなぐ感染対策支援室の横山です。
先日、今年改定された新しい診療報酬についておさらいする機会がありました。
病院の場合、定期的に厚生局の適時調査や、医療法に基づく保健所の立ち入り調査を受けます。
これは診療報酬や医療法に定められた基準に沿った管理運営がなされているか定期的にチェックするシステムの一部です。
私も医療機関で感染管理者として勤務していた時は、実際に適時調査や立ち入り調査の対応をしていました。
正直、あまり心地の良い時間ではなかったのですが(好きという人はきっといないと思う)、自施設のできているところ、できていないところを客観的にみてもらう機会としては、とても大切なものだと認識していました。
介護施設の場合、厚生局や保健所ではなく都道府県や市区町村の介護保険担当部署が運営指導(旧実地指導)として、原則として事業所・施設の指定・許可の有効期間(6年間)の中で1回以上実施されています。
これらの適時調査や運営指導が近くなると、マニュアルや書類関係の確認に追われる管理者の方は多いと思います。
今回は介護施設を対象として、運営指導における返還事例とその対策について考えてみました。
はじめに
「運営指導の後に、数百万円規模の介護報酬を返還した」——そんな話を耳にしたことはありませんか?
コロナ禍で一時的に減少していた運営指導(旧:実地指導)と監査が、2023年度以降から本格的に再開しています。長期間にわたり指導が行われなかった分、違反状態が蓄積している施設では、一度の指導で重大な指摘を受けるリスクが高まっています。
さらに、2024年4月からは感染症・災害を想定した業務継続計画(BCP)の策定が完全義務化され、未整備のまま運営指導を迎えた施設は報酬減算の対象となります。しかも、この減算は「発覚した時点」ではなく「義務化された2024年4月まで遡って適用」されるという厳しいルールが設けられています。
この記事では、実際に指摘されている事例をもとに、施設が被るリスクと、今すぐ整備すべき体制をわかりやすくお伝えします。
実際に指摘された3つの事例
事例①:感染対策委員会の「名ばかり設置」
指摘内容: 感染対策委員会は設置されているが、議事録がない・年度途中で開催が途絶えている・構成員が実質的に機能していない。
何が問題だったか: 令和3年度の介護報酬改定により、施設系(特養・老健等)では感染対策委員会をおおむね3か月に1回以上開催することが義務付けられています。委員会を「設置した」だけで終わっており、定期開催の記録がなければ運営基準違反と判断されます。
運営指導で確認されるもの(厚生労働省「介護保険施設等運営指導マニュアル」より):
- 委員会名簿・開催記録(議事録)
- 感染対策の指針(感染症予防マニュアル)
- 職員研修・訓練の実施記録
📌 整備のポイント: 形式的な設置だけでなく、定期開催の記録と議事録の保管まで行うこと。年間スケジュールを立て、担当者を明確にする。
事例②:職員研修が「年1回以下」または記録なし
指摘内容: 感染症に関する職員研修が年に1回未満しか実施されていない、あるいは実施しているが記録が残っていない。
何が問題だったか: 入所系では年2回以上の感染症研修・訓練が義務付けられています(通所系は年1回)。「全員で通達を読んだ」程度では研修とは認められません。参加者名簿、実施内容、担当者の記録が必要です。
注意が必要な実例: 名古屋市の令和4年度運営指導のまとめでも、「研修計画がない・研修記録が残っていない」は介護施設において繰り返し挙げられる指摘事項です。
📌 整備のポイント: 研修記録様式を統一し、参加者署名・内容の記録・訓練の振り返りシートを保管する。訓練は机上シミュレーションと実地を組み合わせると効果的。
事例③:BCPが「形だけ」または未策定
指摘内容: 2024年4月以降も感染症BCPまたは災害BCPが未策定のまま運営指導を迎えた。あるいは厚労省のひな形をコピーしただけで、施設の実態に即した内容になっていない。
何が問題だったか: 令和6年度の介護報酬改定において「業務継続計画未策定減算」が新設されました。施設系・居住系では基本報酬から3%の減算が適用されます。さらに、令和7年(2025年)10月の運営指導でBCP未策定が発覚した場合、2024年4月まで遡って減算が適用されるという解釈が厚労省から示されています。
📌 整備のポイント: ひな形を使う場合でも、自施設の体制・連絡先・優先業務などを具体的に記載すること。定期的な訓練と見直し(PDCAサイクル)も義務の一部。
監査・指摘が招く経済的損失と社会的信用の失墜
経済的損失
| リスクの種類 | 内容・目安 |
|---|---|
| BCP未策定減算 | 基本報酬の3%減算(施設系・居住系)。2024年4月以降に遡って適用。月次報酬が300万円の施設では月9万円、年間約108万円の損失 |
| 介護報酬の返還 | 指定基準違反が認められた期間の報酬返還。長期間の違反ほど返還額が増大。複数年にわたれば数百万円~数千万円規模も |
| 指定の効力停止 | 一定期間、新規利用者の受け入れが不可能に。入所稼働率が低下し、収入が大幅減少 |
| 訴訟リスク | BCP未策定の状態で感染症クラスターが発生し死亡者が出た場合、「安全配慮義務違反」として民事訴訟に発展する可能性 |
※介護報酬返還に関する参考:弁護士法人かなめ「介護事業所が受ける行政処分・行政指導の内容や対応方法を事例付きで解説」、東京都「令和5年度指導検査報告書」
社会的信用の損失
行政処分を受けた施設の情報は、都道府県・市区町村のウェブサイト等で公表されます。具体的には以下のリスクが発生します。
- 利用者・家族からの不信感: 感染対策の不備が報道や口コミで広まると、新規入所者の獲得が困難に
- 職員の離職: 「問題のある施設」というイメージは人材確保を直撃。慢性的な人員不足に陥る悪循環
- 地域包括支援センター・ケアマネジャーからの紹介が減少: 行政処分・報道後は紹介を控えられるケースが報告されている
- 指定取消の場合: 事業者としての社会的信用は事実上消滅。施設存続自体が困難になる
今すぐ確認すべきチェックリスト
以下の項目を施設内で確認してみてください。
【感染対策委員会】
- 年4回(3か月に1回)以上の開催記録があるか
- 議事録と参加者名簿が保管されているか
- 委員会の決定事項が全職員に周知されているか
【職員研修・訓練】
- 年2回以上の研修を実施しているか
- 参加者名簿・研修内容・実施日の記録があるか
- 机上訓練または実地訓練を組み込んでいるか
【感染症対策マニュアル・指針】
- 平常時と発生時の対応が区別されたマニュアルが存在するか
- 最終更新日が記載されており、定期的に見直されているか
【BCP(業務継続計画)】
- 感染症BCPと自然災害BCPの両方が策定されているか
- 自施設の体制・連絡先・優先業務が具体的に記載されているか
- BCP訓練の実施記録があるか
おわりに
感染対策は「やっている」と思っていても、記録・体制・計画の整備が追いついていないケースが非常に多く見られます。運営指導は施設への「支援」として行われるものですが、監査は「不正や違反の疑いを前提とした調査」であり、行政処分につながる深刻な手続きです。
大切な入所者を守り、職員の安心した働き環境を守るためにも、感染対策の体制整備は「義務だから」ではなく、「施設の根幹」として取り組むことが求められます。
整備の進め方に迷ったとき、外部の専門家を活用することも有効な選択肢のひとつです。ご不明な点があれば、ぜひお気軽にご相談ください。
▶感染対策のご相談はこちらからお気軽にご連絡ください
参考資料
- 厚生労働省老健局「介護現場における感染対策の手引き 第3版」(令和5年9月)
- 厚生労働省「業務継続計画(BCP)の策定義務化」介護報酬改定関連通知(令和6年4月)
- 厚生労働省「介護保険施設等監査マニュアル(令和6年4月)」
- 介護ニュースJoint「BCP未策定発覚なら遡って適用 厚労省が解釈」
- 弁護士法人かなめ「介護事業所が受ける行政処分・行政指導の内容や対応方法を事例付きで解説」
- 介護・福祉・行政対応のエキスパート 山田勝義「介護施設の監査に引っかかった場合に生じる経済的影響はどうなるのか」
- 名古屋市「運営指導に係る主な指摘事項(介護保険施設版)令和4年度」
- キラリアハイジーン株式会社「介護施設の感染対策委員会の役割とは?」
本記事の内容は、2026年6月現在の情報に基づいています。法令・制度は改正されることがありますので、最新情報は各都道府県・市区町村の担当窓口または厚生労働省ウェブサイトにてご確認ください。



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