香川県を拠点に、医療・介護・保育の現場で、感染対策の相談、職員研修、マニュアル・BCP整備など、現場に合った「無理なく続けられる感染対策」の支援を行う、感染管理認定看護師の横山達也です。
2026年9月4日、香川県は県内のインフルエンザが流行入りしたことを発表しました。
2026年第35週(8月24日~30日)の定点医療機関あたりの患者報告数が「1.00人」となり、流行入りの目安である1.00人に達したためです。
これは過去10年間で2番目に早い流行入りとなっています。
まだ9月上旬。
「インフルエンザ対策はもう少し寒くなってから」
と考えていた施設も少なくないのではないでしょうか。
しかし、流行が始まった今、介護施設や保育施設では、感染者が発生してから慌てて対応を考えるのではなく、普段行っている感染対策が本当に機能する状態になっているか、一度確認しておくことが重要です。
今回は、介護施設・保育施設で今すぐ確認していただきたい感染対策を、5つに絞って解説します。
1.「発熱した人」だけでなく、いつもと違う体調変化を早く見つける
インフルエンザ対策というと、
「38℃以上の発熱が出たら対応する」
というイメージを持たれがちです。
しかし、感染拡大を防ぐために重要なのは、感染症を疑う人をできるだけ早く見つけ、周囲との接触を減らすことです。
特に高齢者の場合、感染していても高熱が目立たないことがあります。厚生労働省の「介護現場における感染対策の手引き」でも、高齢者では発熱が顕著でない場合があるため注意が必要とされています。
「熱はないから大丈夫」と考えるのではなく、
食欲がない、いつもより元気がない、咳や鼻水が出てきた、ぼんやりしている、活動性が低下しているなど、普段との違いにも目を向けることが大切です。
保育施設でも同様です。
登園時には元気だった子どもが、数時間後には急に発熱することもあります。
そのため、介護・保育施設ともに重要なのは、「何℃になったら対応するか」だけではありません。
「誰が異変を確認し、誰に報告し、どこで待機してもらい、家族や医療機関へどのようにつなぐのか」まで決まっているかを確認してください。
保育所でインフルエンザが疑われる場合には、他の子どもから離して別室等で保育するなど、早期に感染拡大防止策をとることが示されています。
2.手指衛生と咳エチケットが「できる環境」になっているか
インフルエンザ対策でも、手洗いや手指消毒、咳エチケットは基本となります。
香川県も今回の流行入りに際し、こまめな手洗い、換気、咳やくしゃみがある場合のマスク着用などを呼びかけています。
ここで管理者の方に確認していただきたいのは、
「職員に手指衛生をしてくださいと伝えているか」ではなく、
「必要なタイミングで実際にできる環境になっているか」
という点です。
例えば、手指消毒剤が必要な場所(居室の入り口、スタッフがデスクワークを行う部屋、休憩室など)に設置されているでしょうか?
ボトルが空になっていないでしょうか?
開封後、極端に期間の空いた手指消毒剤はありませんか?
手袋を外した職員が、そのまま次の利用者や園児、周囲の物品に触れていないでしょうか?
また、咳や鼻水などの症状がある人への対応も重要です。
職員に咳やくしゃみなどの症状がある場合には、咳エチケットを徹底するとともに、体調を報告しやすい仕組みを整えておきましょう。
厚生労働省は、咳エチケットについて、マスクやティッシュ、袖などを使って口や鼻を覆うことを示しています。
保育施設では、子どもへのマスク着用を一律に考えるのではなく、年齢や発達、体調、安全性への配慮も必要です。こども家庭庁のガイドラインでも、症状があり、マスクを着用できる年齢の子どもには咳エチケットを促す一方、マスク着用による体調変化等への注意が示されています。
3.エアコンを使っていても「換気」は必要
9月上旬はまだ暑く、多くの施設でエアコンを使用していると思います。
ここで注意したいのが、
「エアコンをつけている=換気できている」とは限らない
ということです。
一般的な家庭用・業務用エアコンの多くは、室内の空気を循環させながら温度を調整するもので、外気との入れ替えを行っているとは限りません。
そのため、施設に設置されている換気設備を確認し、必要に応じて窓や扉を利用した換気を組み合わせる必要があります。
また、換気扇や24時間換気設備が設置されていても、スイッチが切られていたり、フィルターが目詰まりしていたりすると、本来の性能を発揮できません。
空気清浄機を使用している施設も多いと思いますが、こちらも設置して終わりではありません。
フィルターが汚れたままになっていないか、メーカーが推奨する頻度で清掃・交換されているかを確認しましょう。
今の時期は、
「感染対策のために窓を全開にして、暑さを我慢する」
という極端な対応ではなく、空調を使いながら、施設の構造に合わせて無理なく換気を続けられる方法を考えることが大切です。
4.「全部消毒する」ではなく、よく触れる場所を確認する
インフルエンザが流行すると、
「施設中を消毒したほうがよいですか?」
というご相談を受けることがあります。
しかし感染対策では、消毒の回数をとにかく増やせばよいわけではありません。
インフルエンザは主に呼吸器からの飛沫などを介して広がりますが、ウイルスが付着した手や物品を介した接触感染も起こり得ます。
そのため環境整備では、多くの人が繰り返し触れる場所を意識することがポイントです。
ドアノブ、手すり、テーブル、椅子の背もたれ、スイッチ、タブレット端末、共用のおもちゃなど、「職員や利用者・園児がよく触れている場所はどこか」を一度施設内で確認してみてください。
また、環境清拭では使用する製品の選択だけでなく、希釈方法、保管方法、クロスの使い方、拭く順番なども重要です。
「消毒薬を置いているから大丈夫」ではなく、正しい方法で使用できているかまで確認する必要があります。
この環境清拭については、別の記事で詳しく解説したいと思います。
5.PPEは「感染症だから全部着ける」ものではありません
最後は、手袋・マスク・エプロン・ガウンなどの個人防護具(PPE)です。
感染症が発生すると、不安から
「とりあえず手袋、マスク、ガウンを全部着けて対応しよう」
となることがあります。
しかし、PPEは多ければ多いほど安全になるわけではありません。
自分の身体のどこに、何が付着する可能性があるのかを考えて選ぶことが基本です。
厚生労働省の介護現場向け手引きでも、インフルエンザは飛沫予防策の対象とされ、原則としてサージカルマスクを使用し、必要に応じて他のPPEを組み合わせる考え方が示されています。
例えば、咳をしている利用者の近くで通常の会話や見守りをする場面と、鼻水や痰などが衣服に付着する可能性のあるケアをする場面では、必要なPPEは同じではありません。
手袋についても、「感染者に触れるから常につける」と単純に考えるのではなく、分泌物などに触れる可能性を踏まえて使用します。
そして非常に重要なのが、PPEを外した後の手指衛生です。
手袋を着用していたから手指衛生は不要、ということにはなりません。
手袋を外す際に、手指に微生物が付着するリスクは案外大きいのです。
PPEを正しく選ぶことと同じくらい、
「どこで着けるのか」「どこで外すのか」「外した後に何をするのか」
を職員全員が理解していることが大切です。
感染者が出てからではなく、「今」確認しておきましょう
インフルエンザの流行入りを聞くと、新しい消毒薬を購入したり、PPEを追加で備蓄したりすることに目が向きやすくなります。
もちろん物品の準備も必要です。
しかし、感染拡大を防ぐうえで、それ以上に重要なのが、
「感染症が疑われる人が出たときに、職員が迷わず同じ方向で動けるか」
ということです。
今回の流行入りをきっかけに、ぜひ施設内で次の点を確認してみてください。
- 体調不良者を誰が確認し、誰に報告するか決まっている
- 発症者を一時的に他の利用者・園児から離せる場所が決まっている
- 手指消毒剤などを必要な場所ですぐ使用できる
- 換気設備や空気清浄機の清掃・管理ができている
- よく触れる場所と清拭方法が職員間で共有されている
- インフルエンザ対応時に必要なPPEを職員が選択できる
- PPEを外した後に手指衛生を行うことが徹底されている
- 職員自身に症状が出た場合の報告・勤務のルールが明確になっている
いくつか「そういえば、どうなっていたかな?」と思う項目があれば、今が見直すタイミングです。
感染対策は、特別なことをたくさん追加することではありません。
普段行っている基本的な対策を、必要な人が、必要な場面で、確実に実施できる仕組みにしておくことが大切です。
今後このブログでは、今回取り上げた「環境清拭」「PPEの選び方」「施設での換気方法」について、それぞれ具体的に解説していく予定です。
「読んで終わり」ではなく、施設全体でできる状態へ。
感染対策は、知識として知っているだけでは十分ではありません。
職員一人ひとりが同じ考え方で、必要な場面に適切な対応ができる状態にしておくことが大切です。
- 職員研修をしたい
- 今のマニュアルを確認してほしい
- 施設の感染対策を専門家に見てもらいたい
このようなご相談に対応しています。
参考資料
香川県「インフルエンザの流行入りについて」/厚生労働省「介護現場における感染対策の手引き 第3版」/厚生労働省「咳エチケット」/こども家庭庁「保育所における感染症対策ガイドライン」



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