香川県を拠点に、医療・介護・保育の現場で、感染対策の相談、職員研修、マニュアル・BCP整備など、現場に合った「無理なく続けられる感染対策」の支援を行う、感染管理認定看護師の横山達也です。
皆さんの施設の感染対策マニュアル、最後に見直したのはいつでしょうか。
「毎年確認はしているけれど、日付だけ更新している」
「かなり前に作ったものがそのまま残っている」
「マニュアルはあるけれど、実際の現場では別の方法で動いている」
「感染症が発生したとき、本当にこの内容で職員が動けるのか不安」
医療機関や介護施設では、このような状況が起こることがあります。
感染対策マニュアルで大切なのは、「存在していること」ではなく、実際の現場で使えることです。
厚生労働省も、医療機関の感染対策マニュアルについて、最新の科学的根拠や院内体制の実態に基づいて適時見直すことを示しています。
また、介護施設についても、国のマニュアルをそのまま置いておくのではなく、それぞれの施設の実情を踏まえた指針・マニュアルを整備することが重要です。
今回は、医療機関・介護施設の管理者や感染管理担当者に向けて、感染対策マニュアルを見直す際に確認したいポイントを解説します。
感染対策マニュアルは「完成したら終わり」ではありません
マニュアルを一度作ること自体は、それほど難しくありません。
難しいのは、
現場や感染対策を取り巻く状況が変わっても、使える状態を維持すること
です。
例えば、マニュアル作成後に、
- 新しい設備を導入した
- 病棟やフロアの構造が変わった
- 感染対策担当者が交代した
- 使用している消毒薬やPPEが変わった
- 委託業者や業務分担が変わった
- 新しい職員が増えた
- ガイドラインや行政通知が更新された
ということはないでしょうか。
マニュアルの文章が以前のままでも、現場の方が先に変化していることがあります。
その結果、
マニュアルに書かれている方法と、実際に職員が行っている方法が違う
という状態が生まれます。
だからこそ、感染対策マニュアルは定期的に「内容」と「現場」の両方を確認する必要があります。
感染対策マニュアルを見直す7つのポイント
1.最終更新日だけでなく「何を見直したか」を確認する
まず確認したいのが、マニュアルの最終更新日です。
ただし、
日付が新しければ問題ない、ということではありません。
表紙の日付だけを変更して、中身が何年も同じということもあります。
確認したいのは、
- ガイドラインや行政通知の変更が反映されているか
- 使用している製品・設備が現在のものになっているか
- 現在の組織体制や担当者に合っているか
- 院内・施設内で発生した感染症から得られた課題が反映されているか
という点です。
できれば、
「いつ・どこを・なぜ変更したか」
が分かる改訂履歴を残しておくと、その後の管理もしやすくなります。
2.最新の科学的根拠やガイドラインと合っているか
感染対策は、以前「常識」とされていた方法が、現在では推奨されていないこともあります。
例えば、
- 手指衛生
- PPEの使用
- 消毒薬の選択
- 環境清掃
- 尿道留置カテーテル管理
- 血管内カテーテル管理
- 薬剤耐性菌への対応
などは、科学的根拠やガイドラインを踏まえて整理する必要があります。
一方で、すべての最新情報をマニュアルに書き込めばよいわけでもありません。
情報を増やしすぎると、
「詳しいけれど、誰も読めないマニュアル」
になってしまいます。
大切なのは、
現場で必要な内容を、根拠を踏まえて分かりやすく整理すること
です。
3.マニュアルと「実際の現場」が一致しているか
私は、この確認を特に重要だと考えています。
マニュアルには、
個人防護具を着用する
と書いてある。
しかし実際には、「その場所にPPEが置かれていない」ということがあります。
マニュアルには、
吐物処理セットを使用する
と書いてある。
しかし職員に聞くと、「どこにあるか分からない」ということもあります。
これは職員個人の問題とは限りません。
- 必要な場所に物品がない
- 業務動線に合っていない
- 手順が複雑すぎる
- 実際の人員配置では実施できない
など、仕組み側に原因がある可能性もあります。
そのため、マニュアルを見直す際には机上で文章を確認するだけではなく、
実際の現場を歩きながら、書かれていることが本当に実行できるか確認する
ことが重要です。
4.感染症が発生したとき「誰が・何をするか」が分かるか
感染症発生時のマニュアルに、
「速やかに対応する」
「適切に隔離する」
「管理者へ報告する」
とだけ書かれていないでしょうか。
平時には問題なく読める文章でも、感染症が発生して現場が慌ただしくなると、具体性が不足していることがあります。
例えば、
- 誰が最初に状況を確認するのか
- 誰に報告するのか
- 誰が利用者・患者を誘導するのか
- 必要なPPEや物品はどこにあるのか
- どの範囲まで環境清掃・消毒を行うのか
- どの時点で管理者・感染管理担当者へ報告するのか
- 必要時、保健所など外部機関へ誰が連絡するのか
といったことまで整理されているでしょうか。
感染症発生時に重要なのは、
感染対策担当者がいなくても、現場の職員が最初の行動を取れることです。
5.「誰が読んでも動ける」内容になっているか
感染対策マニュアルを作成しているのは、感染管理担当者など専門知識を持った職員であることが多いと思います。
その結果、作った本人には分かるけれど、一般の職員には分かりにくい内容になることがあります。
例えば、
- 専門用語や略語が多い
- 長い文章が続いている
- 必要な情報がどこにあるか分からない
- 感染症ごとの対応が複数ページに分散している
- 緊急時にも最初から文章を読まなければならない
といった状態です。
感染症が発生した場面では、マニュアルをじっくり読み込む余裕はありません。
必要に応じて、
- フローチャート
- チェックリスト
- 写真
- 図表
- PPE着脱手順
- 連絡先一覧
などを使い、
「必要なときに、必要な情報をすぐ取り出せる」
構成にすることも重要です。
6.部署・職種ごとの役割が現状と合っているか
特に病院では、一つの感染対策マニュアルだけでは各部署特有の課題をカバーできないことがあります。
例えば、
- 病棟
- 外来
- 手術室
- 内視鏡室
- 透析室
- 検査部門
- リハビリ部門
では、感染リスクや必要な対応が異なります。
介護施設でも、
- 介護職
- 看護職
- リハビリ職
- 厨房
- 清掃
- 送迎担当者
など、それぞれ関わる業務が違います。
施設全体の基本的な感染対策は共通化しつつ、
必要な部分だけ、部署・職種に合わせた具体的な手順を整理することが実用的です。
また、
「感染対策担当者」「施設長」「看護責任者」
など役職名だけではなく、現在の組織体制と役割分担が一致しているかも確認してみてください。
7.マニュアル・研修・BCPがバラバラになっていないか
もう一つ確認したいのが、関連する文書や教育との整合性です。
例えば、
感染対策マニュアルでは、
感染症発生時は職員を追加配置する
となっている。
しかしBCPでは、人員不足を前提として業務を縮小する計画になっている。
このように、それぞれの文書を別々に作成した結果、内容が一致していないことがあります。
また、マニュアルに書かれているのに、職員研修では一度も扱ったことがないという状態もあります。
マニュアルは単独で存在するものではありません。
マニュアル
→職員教育
→訓練
→実際の運用
→見直し
までつながっていることが重要です。
まず確認したい「感染対策マニュアル」チェックリスト
自施設のマニュアルを開きながら、次の項目を確認してみてください。
| 確認項目 | チェック |
|---|---|
| 最新のガイドライン・行政通知等を踏まえている | □ |
| 現在使用している設備・物品が記載されている | □ |
| 現在の組織体制・役割分担と一致している | □ |
| マニュアルと実際の現場の方法が一致している | □ |
| 感染症発生時の初動が具体的に書かれている | □ |
| 誰が・いつ・何をするのか分かる | □ |
| 新人職員が読んでも理解できる | □ |
| 図表・フローなどで必要な情報を探しやすい | □ |
| 研修・訓練の内容とマニュアルが一致している | □ |
| BCPなど他の関連文書と矛盾していない | □ |
| 定期的に見直す担当・仕組みが決まっている | □ |
すべてにチェックが付かなかったからといって、
すぐにマニュアルを一から作り直す必要があるわけではありません。
ここが重要です。
マニュアル見直し=「全部作り直す」ではありません
感染対策マニュアルを確認すると、
「古いから全部作り直さなければ」
と思うかもしれません。
しかし実際には、
- 今のままで問題ない部分
- 一部修正すればよい部分
- 現場の運用だけ変えればよい部分
- 優先して見直す必要がある部分
が混在していることが多いです。
例えば、手指衛生の記載自体は問題ない。
しかし、現場を見ると手指消毒剤の配置に課題がある。
この場合、マニュアルを書き直すより、
まず現場環境を変える方が効果的
かもしれません。
逆に、感染症発生時の連絡体制そのものが以前の組織図のままなら、
マニュアルの改訂を優先する必要があります。
感染対策では、「何を直すか」と同じくらい、「何を直さなくてよいか」を整理することも大切です。
管理者と感染管理担当者では、確認する視点が少し違います
マニュアルを見直す際、管理者と感染管理担当者が一緒に確認することをおすすめします。
管理者が確認したいこと
- 誰が責任を持つのか
- 人員配置上、実行可能か
- 職員へ周知されているか
- 研修・訓練につながっているか
- BCPや施設運営上のルールと矛盾していないか
感染管理担当者が確認したいこと
- 科学的根拠が現在の内容と合っているか
- 標準予防策・感染経路別予防策が適切か
- 実際のケアや処置と手順が一致しているか
- 感染症発生時の初動が具体的か
- 職員が実践できる内容になっているか
どちらか一方だけではなく、
専門的な正しさと、施設として実行できることの両方を確認する
ことが、使えるマニュアルにつながります。
マニュアルを作ることより「使える状態を作る」ことが大切です
感染対策マニュアルは、監査や運営指導のためだけに作るものではありません。
本来の目的は、患者さん・利用者さん、そして職員を感染から守るために、現場で適切な行動を取れるようにすることです。
立派なファイルが棚に置かれていても、感染症が発生したときに誰も使えなければ十分とはいえません。
一方で、完璧なマニュアルを作ろうとして、感染管理担当者だけが膨大な時間を費やす必要もありません。
まず、今のマニュアルのどこに課題があるのかを整理するところから始めることをおすすめします。

私が病院の感染管理者をしているとき、マニュアルに書かれていることなのに、感染管理室へ電話で質問してくる、という事例が多くみられました。
直接聞くのも悪くはないのですが、そもそもスタッフがマニュアルにアクセスしにくい環境であることが分かり、ブラウザから検索してマニュアルにアクセスできるようなシステムを作り、改善することができました。
課題やボトルネックは施設によって異なるので、ぜひ一度「どこに課題があるのか」という視点で分析してみてください。
一人で抱え込まず、専門家に相談してみませんか?
「マニュアルを見直したいけれど、何から手をつければよいか分からない」
「今のマニュアルが、最新の感染対策に合っているのか不安」
「現場の職員が実践しやすい内容に改善したい」
そんなお悩みはありませんか?
感染対策マニュアルは、ただ整備するだけでなく、施設の状況に合っていて、職員が無理なく実践できることが大切です。
つなぐ感染対策支援室では、2026年11月から全国を対象としたオンライン感染対策相談を開始しました。
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まずはお気軽にご相談ください。
※オンライン相談は、マニュアルの課題整理や改善方法に関する助言を行うサービスです。マニュアルの作成・改訂作業そのものは含まれません。
まとめ
感染対策マニュアルを見直す際は、
- 更新日だけでなく、実際に何を改訂したか
- 最新の科学的根拠と合っているか
- マニュアルと現場が一致しているか
- 感染症発生時の初動が具体的か
- 誰が読んでも行動できる内容か
- 部署・職種・現在の組織体制と合っているか
- 研修やBCPなど関連する仕組みとつながっているか
を確認してみてください。
そして何より、
感染対策マニュアルは「きれいに作ること」ではなく、「現場で使えること」が重要です。
全部を一度に直そうとせず、今の施設にとって必要なところから少しずつ整えていきましょう。




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