なぜ病院を辞めて起業したのか|感染管理認定看護師が地域の感染対策支援を始めた理由

起業に関するあれこれ

こんにちは。つなぐ感染対策支援室の横山です。

ここ1か月ほど、前職でお世話になった医療機器メーカーや医薬品卸売業者の皆様とお話しする機会を多くいただいています。
皆様から事業への期待や貴重なアドバイスをいただき、改めて身の引き締まる思いです。

その中で、多くの方から共通していただく質問があります。

「こういう事業はあまり聞いたことがないけれど、なぜ始めようと思ったのですか?」

確かに、感染管理認定看護師が病院を離れ、地域の医療機関や介護施設、保育施設を対象に感染対策支援を行う事業は、全国的にもまだ珍しいかもしれません。

そこで今回は、「なぜ病院を辞めて、この事業を始めたのか」について、できるだけ正直にお話ししたいと思います。


15年間、病院の中で感染対策と向き合ってきた

2010年から15年間、香川県内の急性期病院に勤務しました。2022年には感染管理認定看護師の資格を取得し、院内感染管理者として働いてきました。

保健所への届出業務、監査対応、職員向けの学習会、地域住民向けの講演──院内だけでなく、院外の介護施設や歯科診療所、保育施設からの相談にも対応してきました。感染対策の仕事はやりがいがあり、本当に好きでした。

でも、働くうちにある「現実」が少しずつ、鮮明に見えてきたのです。


ある介護施設の看護師長が、相談に来てくれた日

忘れられない場面があります。

ある日、県内の介護施設の看護師長さんが、私のいる感染管理室を訪ねてこられました。新型コロナの対応について、苦労を打ち明けてくださったのです。

話を聞いていくと、課題は一つではありませんでした。

  • 管理者と現場スタッフの間で認識にズレがある
  • そもそも「今、何をするのが正しいのか」がわからない
  • 普段の対策が過剰すぎて職員が疲弊しているのではないか

そういったことが、次々と浮かび上がってきました。

お話を伺い、私の立場からできるアドバイスをお伝えすると、その看護師長さんはほっとした表情で帰っていかれました。その後、「前向きに取り組むことができています」という連絡をいただいたとき、素直に嬉しかったです。

ただ、それと同時に、こう思ったのです。

「この施設は、たまたま私を頼ることができた。でも、頼れる場所やつながりがない施設は、どうしているんだろう」


多職種が一丸になれなかったクラスター対応

もう一つ、心に残っている経験があります。

感染管理認定看護師が在籍していない病院から、「クラスターが発生しているが、感染拡大が続いている」という相談を受けました。

実際に現場を見せていただくと、状況がよくわかりました。
看護師は日々のケアに加え懸命に感染対策に取り組んでいる。でも、介護士やリハビリスタッフなど多職種が動く病棟であるにも関わらず、対応の方針が共有されていない。つまりチームとして同じ方向を向いて動けていなかったのです。

そこで、多職種のマネージャーや院長クラスも交えて対応方法を統一し、それを現場全体に周知することを提案しました。その後のクラスターでは、多職種が一丸となって動き、早期に収束させることができたと聞きました。

このとき感じたのは、感染対策は「知っている人が頑張る」だけでは成立しないということです。チーム全体が同じ知識と方針を持って動いてはじめて機能する。そして、その「仕組みづくり」を外から機動的に手伝える人間が、地域にはほとんどいないという現実でした。


病院でケアを徹底しても、施設に戻れば繰り返す

院内感染管理者として働きながら、もう一つの現実も見えていました。

介護施設や在宅から繰り返し入院してくる患者さんたちのことです。誤嚥性肺炎、尿路感染症、中心静脈カテーテル関連感染──「また同じ方が入院してきた」という場面が、決して珍しくありませんでした。

病院のスタッフはケア方法を磨き、感染対策を徹底します。でも、患者さんが実際に生活している施設でのケアが適切でなければ、退院してまた感染を起こして戻ってくる。そのサイクルが続く限り、患者さん、施設や在宅のスタッフ、病院のスタッフも、誰も救われません。

そのとき確信しました。

感染対策は、病院の中だけで完結する仕事ではない。患者さんが生活している地域まで届かなければ、本当の意味で感染症は減らせない。


「ないなら、つくればいい」

そう気づいてから、自然と視野が広がっていきました。

地域の介護施設、保育施設、歯科診療所──感染管理の専門家に気軽に相談できる窓口が、どれだけあるでしょうか。実際に動いてくれる人が、近くにいるでしょうか。

当時の私をはじめとした医療機関に所属している感染管理認定看護師は当然、地域からの相談があれば可能な限り誠実に対応します。しかし実情としては院内の対応と連携要件を満たすための活動で手一杯で、積極的に地域へアウトリーチする時間はほぼありません。

また、少なくとも私の周りには、そういった活動をする機関や会社も、ほとんど見当たりませんでした。

ならば、自分でつくってしまおう。

そう思ったのが、つなぐ感染対策支援室を立ち上げたきっかけです。「勢いで」と言えば聞こえが悪いかもしれませんが、必要だと確信したことをやる、というのはごく自然な流れだったと今でも思っています。


「つなぐ」に込めた思い

施設名に「つなぐ」という言葉を選んだのは、この仕事の本質がそこにあると思っているからです。

病院と地域をつなぐ。専門知識と現場をつなぐ。困っている施設と、具体的な解決策をつなぐ。

感染対策の知識は、専門家の頭の中に眠っているだけでは意味がありません。現場で使われてはじめて、人の命と健康を守る力になります。

15年間の臨床経験と、感染管理認定看護師としての専門性を、地域に還元していきたい。そのために、この事業をつくりました。

大げさなことは言えませんが、訪問した施設の方が「相談してよかった」と思えるような支援を、一つひとつ積み重ねていくことが、今の私の仕事です。

これからも、どうぞよろしくお願いします。

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