香川県を拠点に、医療・介護・保育の現場で、感染対策の相談、職員研修、マニュアル・BCP整備など、現場に合った「無理なく続けられる感染対策」の支援を行う、感染管理認定看護師の横山達也です。
「サーベイランスはしているけれど、集計して終わっている」
「感染率が高いことは分かった。でも、何から改善すればよいか分からない」
「研修をしても、実際の現場の行動がなかなか変わらない」
感染対策を担当していると、このような壁にぶつかることがあります。
サーベイランスの目的は、数字を集めることではありません。
データから課題を見つけ、現場を確認し、改善策を実行し、その後の変化を再びデータで確認すること。
今回は、私が病院勤務時代に感染管理者として取り組んだ、尿道留置カテーテル関連尿路感染(CAUTI)の改善事例をご紹介します。
※本記事は「つなぐ感染対策支援室」開業後の受託実績ではなく、代表が病院勤務時代に院内感染管理者として行った改善事例です。個人・施設が特定されないよう、一部情報を加工しています。
今回の改善事例の概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 前職の急性期医療機関の病棟 |
| 課題 | CAUTI発生率が他病棟と比較して高い状態が継続 |
| 改善前 | 5.3/1,000デバイスデイズ |
| 主な取り組み | サーベイランス分析、現場ラウンド、職員教育、管理者への継続フィードバック |
| 改善後 | 2.28/1,000デバイスデイズまで低下 |
| ポイント | データを見るだけで終わらず、現場確認と継続的な改善につなげた |
サーベイランスで見つかった「5.3」という数字
当時、院内感染管理者としてデバイス関連感染のサーベイランスデータを確認していたところ、ある病棟でCAUTI発生率が、
5.3/1,000デバイスデイズ
と、院内の他病棟や当時参照していたベンチマークと比較して高い状態が続いていることが分かりました。
ここで重要なのは、
「感染率が高かったので研修をした」
と、すぐに対策を決めなかったことです。
数字が高いことは分かっても、その数字だけでは、
「なぜ高いのか」
までは分かりません。
そこで次に行ったのが、実際の現場を確認する病棟ラウンドでした。
サーベイランスの次に「現場を見る」
実際に病棟へ入り、尿道留置カテーテルの挿入や管理に関する手順を確認しました。
すると、自施設で定めていた手順と、実際の現場で行われているケアの間にいくつかの違いがあることが分かりました。
例えば、
- 自施設で定めていた挿入前の清潔ケアが十分に実施されていない場面がある
- カテーテル挿入時の手技について、職員間で認識に違いがある
- マニュアルには記載されていても、実際の手順として十分に定着していない
といった状況です。
CAUTI対策では、尿道留置カテーテルを必要な場合に限って使用すること、無菌操作で挿入すること、閉鎖式ドレナージシステムを維持すること、尿流を妨げないことなどが基本になります。医療従事者への継続的な教育も重要です。
しかし、ガイドラインやマニュアルが存在していることと、
現場で実際にその通り行われていることは別です。
今回の事例でも、サーベイランスデータと現場ラウンドを組み合わせたことで、数字だけを見ていては分からなかった課題が見えてきました。
介入① 「注意してください」ではなく、データを使った職員教育
課題が見えてきたところで、病棟スタッフを対象に学習会を実施しました。
ただし、
「マニュアルを守ってください」
「正しい方法で実施してください」
と注意するだけの研修にはしませんでした。
学習会では、
- CAUTIがなぜ起こるのか
- 尿道留置カテーテルの挿入・管理で押さえるべきポイント
- 実際に自分たちの病棟で発生しているCAUTI
- 自病棟のサーベイランス結果
- 現場ラウンドで確認された課題
を具体的に共有しました。
つまり、
「一般論として感染対策が大切だからやりましょう」
ではなく、
「実際に自分たちの病棟でこのような結果が出ている。その背景として、こうした現場の課題が考えられる」
と結びつけました。
また、一部の職員だけが知識を得ても病棟全体の行動は変わりません。
そのため、勤務の都合で参加できない職員ができるだけ生じないよう、学習会は複数回実施しました。
介入② 管理者を巻き込み「感染対策担当者だけが頑張る状態」から変える
職員研修だけで終わらせなかったことも、今回の取り組みで大切にしたポイントです。
感染管理担当者が一人で、
「手順を守ってください」
「感染対策をしてください」
と働きかけ続けても、担当者が疲弊してしまいます。
さらに、研修の直後には意識されても、時間が経つと元の行動に戻ってしまうこともあります。
そこで、
- 病棟師長・主任へサーベイランス結果を継続的に共有する
- 現場で確認された課題を管理者と共有する
- 日常業務の中で、病棟側からも声かけを行う
- 改善後もサーベイランスを継続する
という形で、病棟管理者にも関わってもらいました。
感染対策を、
「感染管理担当者から言われたからするもの」
ではなく、
「病棟全体で継続するもの」
へ変えていくことを意識しました。
取り組み後、CAUTI発生率は5.3から2.28へ
こうした取り組みを継続した後、CAUTI発生率は、5.3 → 2.28/1,000デバイスデイズ
まで低下しました。

単に学習会を一度実施して終了したのではなく、その後もサーベイランスを継続し、発生状況を確認しました。
なお、この数値は一連の取り組み前後を比較したものであり、今回の介入のみが発生率低下のすべての原因であると証明するものではありません。
しかし、
データで課題を把握する
→現場を見る
→必要な教育を行う
→管理者を巻き込む
→再びデータで評価する
という一連の改善活動を継続することの重要性を実感した事例となりました。
取り組みを他病棟へ横展開
この事例で得られた気づきを、対象病棟だけのものにはしませんでした。
他病棟でも同様に、
- サーベイランスデータの共有
- 尿道留置カテーテル管理に関する教育
- 現場での手技の確認
などを行いました。
その後、他病棟でも発生率の低下や手技の標準化につながる変化が確認されました。
一つの部署で発生した課題を、
「その病棟だけの問題」
として終わらせず、院内全体の感染対策改善につなげる。
これも感染管理者に求められる重要な役割だと考えています。
感染対策では「研修をすること」がゴールではありません
今回の事例では、職員向けの学習会を実施しました。
しかし、
「研修をしたから感染率が下がった」
という単純な話ではありません。
重要だったのは、
- サーベイランスで課題を発見する
- 現場ラウンドで実際の状況を確認する
- データと現場の情報を組み合わせて課題を整理する
- 必要な職員教育を行う
- 管理者を巻き込んで継続できる仕組みを作る
- その後のデータを確認する
という流れです。
研修は、その中の一つの手段です。
感染対策では、
「研修を何回したか」ではなく、「現場がどう変わったか」
まで確認することが大切です。
この事例から分かる3つのポイント
1.サーベイランスは「数字を出して終わり」にしない
感染率を計算するだけでは、現場は変わりません。
他病棟や過去の自施設データなどと比較し、
「この数字から、何を確認する必要があるのか」
を考えることが重要です。
2.数字に違和感があれば、実際の現場を見る
マニュアルが整っていても、その通り実践されているとは限りません。
また、職員がルールを守っていないように見えても、
- 実際の業務では実施しにくい
- 必要な物品が使いやすい場所にない
- 手順そのものが現場に合っていない
など、別の原因が隠れていることがあります。
だからこそ、感染対策では現場ラウンドが重要です。
3.感染対策担当者だけで改善しようとしない
感染対策を継続するためには、管理者や現場スタッフを巻き込む必要があります。
担当者が一人でチェックし続ける仕組みでは、長期的な継続が難しくなります。
現場自身が感染対策を続けられる仕組みを作ること
が重要です。
自施設でも確認してみてください
尿道留置カテーテル関連尿路感染のサーベイランスを実施している施設では、次のような点を確認してみてください。
- CAUTI発生率を病棟別・時系列で確認していますか?
- カテーテル使用状況もあわせて評価していますか?
- 数字が上昇したとき、現場ラウンドを行っていますか?
- マニュアルと実際の手技に違いがないか確認していますか?
- サーベイランス結果を現場や管理者へフィードバックしていますか?
- 教育した後、実際の行動が変わったか確認していますか?
- 感染管理担当者だけが改善活動を抱えていませんか?
一つでも、
「数字は取っているけれど、そこまではできていない」
と感じる項目があれば、改善できる余地があるかもしれません。
現在の「つなぐ感染対策支援室」での病院支援
今回ご紹介したのは、私が病院勤務時代に行った改善事例です。
2026年4月に「つなぐ感染対策支援室」を開業してからも、複数の病院の感染対策担当者からご相談をいただいています。
例えば、香川県内の回復期病棟を有する病院では、
- サーベイランス
- 薬剤耐性菌への対応
- 手指衛生
- 汚物処理設備の運用
- 感染対策業務の優先順位
などについて、感染管理担当者の方と一緒に整理しました。
▶ 病院支援事例はこちら
「香川県の病院向け感染対策相談事例|回復期病棟の課題と改善ポイント」へリンク
▶ 実際にご相談いただいた担当者のご感想はこちら
「病院の感染対策支援|回復期病棟の感染管理担当者からいただいたご感想」へリンク
同様の課題でお困りではありませんか?
- サーベイランスで感染率を把握しているものの、具体的な改善につながらない
- 感染対策マニュアルは整備しているが、現場で十分に実践されていない
- 職員研修を実施しても、日常のケアに定着しない
- 感染対策担当者として、改善に向けた進め方に悩んでいる
感染対策は、単に正しい知識を伝えるだけでは改善につながりません。
現場で何が起こっているのかを把握し、職員や管理者と課題を共有しながら、実践しやすい方法を考えることが大切です。
つなぐ感染対策支援室では、こうした課題について、施設の状況に合わせた改善方法を一緒に考えています。
感染対策の課題を、専門家と一緒に整理してみませんか?
「感染率が高い原因を整理したい」
「今の職員教育の進め方について意見を聞いてみたい」
「改善したいことはあるけれど、何から始めればよいか分からない」
そんなお悩みはありませんか?
つなぐ感染対策支援室では、2026年11月から全国を対象としたオンライン感染対策相談を開始しました。
感染管理認定看護師が、施設の感染対策に関するお困りごとを伺い、課題の整理や改善に向けた取り組みを一緒に検討します。
オンライン感染対策相談
60分・15,000円(税込)
- 全国どこからでも相談可能
- 感染管理認定看護師が直接対応
- サーベイランスや職員教育、感染対策マニュアルなど幅広いご相談に対応
また、現場の状況を直接確認する必要がある場合には、訪問による感染対策ラウンドや職員学習会にも対応しています。
「まずは専門家の意見を聞いてみたい」という段階でも構いません。
感染対策を、もっと優しく、もっと身近に。
現場で無理なく続けられる感染対策を、一緒に考えていきましょう。
※オンライン相談は、ヒアリングやご提示いただいた情報をもとに助言するサービスです。現場の直接確認や感染率の改善を保証するものではありません。




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